公式
大きさが同じで逆向きの2つの力でも、はたらく線(作用線)がずれていると、合力が 0 なのに物体を回します。この2つの力の組を偶力といいます。
力を加えても形が変わらないとみなす、大きさのある物体を、剛体といいます。力がはたらく点を通り、力の向きに引いた線を、その力の作用線といいます。
物体を回す働きの大きさを、力のモーメントといいます。回る中心(軸)から力の作用線までの距離(腕の長さ)を l(エル)、力の大きさを F とすると、モーメントは M = Fl で、単位は N·m(ニュートンメートル)です。このページでは、反時計回りに回す向きを正とし、時計回りに回すモーメントにはマイナスを付けます。
車のハンドルを左へ回す場面を考えます。直径 0.40 m のハンドルの左の端を左手で下へ、右の端を右手で上へ、どちらも 10 N の力を加えます。
2つの力は逆向きで大きさが同じなので、合力は 0 です。それでもハンドルは回ります。2つの力の作用線がずれているので、2つとも同じ向き(ここでは反時計回り)に回す働きをするからです。
大きさが同じで逆向きで、作用線がずれている2つの力の組を偶力といいます。2つの力の作用線の間の距離を d で表します。
2つの力は大きさが同じで逆向きなので、合力は 0 です。
モーメントは、実際の軸がない所でも、点を1つ決めれば計算できます。その点から作用線までの距離を腕の長さにします。これを「その点のまわりのモーメント」といいます。
上のハンドル(直径 0.40 m、左手は下向き 10 N、右手は上向き 10 N)で計算します。作用線の間の距離は d = 0.40 m です。2つの点のまわりで、モーメントの和を計算すると、次の表のようになります(反時計回りを正)。
| 考える点 | 左手の力(下向き 10 N) | 右手の力(上向き 10 N) | 和 |
|---|---|---|---|
| ハンドルの中心 O | 10 × 0.20 = +2.0 N·m | 10 × 0.20 = +2.0 N·m | +4.0 N·m |
| 左手の点 A | 0 N·m(作用線が A を通る) | 10 × 0.40 = +4.0 N·m | +4.0 N·m |
どちらの点で考えても、和は +4.0 N·m で、10 N × 0.40 m と同じです。
偶力のモーメントは、考える点によらず、次の式で求めます。
物体が止まっているには、合力が 0 であるだけでは足りません。モーメントも考える必要があります(次の項目)。
確認
偶力だけがはたらいている物体は、止まったままでいられますか。
いいえ。合力は 0 でも、モーメントが 0 ではないので回りはじめます。
例題
水道の蛇口のハンドルは、幅 0.080 m の棒の形をしています。両端を、ハンドルに垂直に、逆向きに 5.0 N ずつの力で押して回しました。この偶力のモーメントの大きさを求めなさい。
答え: 0.40 N·m
剛体が止まっているには、合力が 0 で、しかもモーメントの和が 0 であることが必要です。
剛体が止まったままでいるには、動き出さないことと、回り出さないことの両方が要ります。動き出さないための条件は、力のつり合いです。剛体にはたらく力の合力が 0 になります(縦の向き・横の向きそれぞれで、力の和が 0)。回り出さないための条件は、モーメントのつり合いです。剛体にはたらく力のモーメントの和が 0 になります。2つをまとめて、剛体のつり合いの条件といいます。
長さ 1.0 m の軽い棒(重さを考えなくてよい棒)の両端 A・B を、天井からつるした2つのばねはかりの糸でつるし、A から 0.40 m の点に 30 N のおもりをつるします。棒は水平に止まっています。
糸が棒を引く力(張力)を T で表します。点 A の糸の張力を TA、点 B の糸の張力を TB と書きます。小さい A・B は、どちらの糸の力かを区別するための印です。ばねはかりの読みは、A の側が 18 N、B の側が 12 N です。これが TA と TB の大きさです。
力のつり合いは、上向きの 18 + 12 = 30 N と、おもりの糸が棒を引く下向きの 30 N で成り立っています。
モーメントの和を、点 A のまわりと点 B のまわりで計算すると、次のようになります(反時計回りを正)。
| 考える点 | TA(上向き 18 N) | TB(上向き 12 N) | おもりの糸の力(下向き 30 N) | 和 |
|---|---|---|---|---|
| 点 A | 0 N·m | +12 × 1.0 = +12 N·m | −30 × 0.40 = −12 N·m | 0 N·m |
| 点 B | −18 × 1.0 = −18 N·m | 0 N·m | +30 × 0.60 = +18 N·m | 0 N·m |
止まっている剛体では、モーメントの和は、どの点のまわりで考えても 0 になります。
糸の力が分からないときは、つり合いの式から求めます。点 A のまわりで考えると、TA の作用線は A を通るので、TA のモーメントは 0 です。式には TB だけが残ります。TB × 1.0 − 30 × 0.40 = 0 から、TB = 12 N です。力のつり合い TA + TB = 30 から、TA = 18 N です。
重さのある棒では、棒の重力も力の1つとして描きます。太さ(板なら厚さ)や材質がどこも同じ物体を、一様な物体といいます。一様な棒は、真ん中を指1本で支えると、水平のまま止まります。そこで、一様な棒や板の重力は、真ん中に1本の力としてはたらくとして描きます。
剛体のつり合いの問題は、次の手順で解きます。
① 剛体にはたらく力をすべて描く(一様な棒なら、真ん中に重力)
② 力のつり合いの式を立てる(合力 = 0)
③ 点を1つ選び、その点のまわりのモーメントの和 = 0 の式を立てる(分からない力の作用線が通る点を選ぶ)
次の図では、おもりをかける位置を変えると、2つのばねはかりの読みがどう分かれるかを確かめます。
棒の長さは 2.0 m で、棒の重さは考えません。おもりの重さは 40 N です。
やってみよう
(1) おもりをかける位置を、真ん中(1.00 m)から A に近づけて、0.50 m にしてください。ばねはかり A と B の読みはいくつになりましたか。(2) ばねはかり A の読みが 25 N になるのは、おもりをどこにかけたときですか。
(1) A は 30 N、B は 10 N です。和は 40 N のままです。(2) 0.75 m です。このとき B は 15 N です。
確認
両端を糸でつるした棒で、モーメントを考える点を、糸 A がつく点 A に選ぶと、式が楽になるのはなぜですか。
TA の作用線が点 A を通るので、TA のモーメントが 0 になり、式に TA が出てこないからです。
例題
長さ 1.2 m の軽い棒の左の端 A と右の端 B を、2本の鉛直な糸でつるしました。A から 0.30 m の点に、重さ 60 N のおもりをつるすと、棒は水平に止まりました。糸 A の張力 TA と糸 B の張力 TB を求めなさい。
答え: TA = 45 N、TB = 15 N
力の大きさの単位は N、モーメントの単位は N·m です。反時計回りに回す向きを正とします。重さは N で与えるので、重力加速度は使いません。三角比は sin 30° = 0.500 を使います。
問1直径 0.36 m の丸いハンドルの左右の端を、両手で逆向きに 15 N ずつの力を加えて回しました。力はどちらもハンドルの横の直径に垂直です。この偶力のモーメントの大きさを求めなさい。
5.4 N·m
2つの力は大きさが同じで逆向きで、作用線がずれているので偶力。力は横の直径に垂直なので、作用線の間の距離は直径で、d = 0.36 m。M = Fd = 15 × 0.36 = 5.4 N·m
問2長さ 0.50 m の棒の両端に、大きさ 12 N の力を逆向きに加えました。どちらの力も、棒と 30° の角をなす向きで、2つの力の作用線は平行です。この偶力のモーメントの大きさを求めなさい。
3.0 N·m
左の端から、右の端の力の作用線へ垂直に線を下ろすと、棒(0.50 m)を斜辺とする直角三角形ができます。d は、この三角形で 30° の角の向かいの辺の長さです。向かいの辺 = 斜辺 × sin 30° なので、d = 0.50 × sin 30° = 0.50 × 0.500 = 0.25 m。M = Fd = 12 × 0.25 = 3.0 N·m
問3シーソーの軸の左 2.0 m に、重さ 300 N の人が座っています。重さ 500 N の人が軸の右側に座って、シーソーを水平につり合わせるには、軸から何 m の所に座ればよいですか。板の重さは考えません。座っている人は、自分の重さと同じ大きさの力で、板を真下へ押します。
1.2 m
右の人の位置を軸から x とする。左の人の力は板の左側を下げるので反時計回り、右の人の力は時計回り。軸のまわりのモーメントの和 = 0 から、300 × 2.0 − 500 × x = 0。x = 600 ÷ 500 = 1.2 m
問4長さ 2.0 m の軽い棒の両端 A・B を、2本の鉛直な糸で天井からつるしました。A から 0.50 m の点に重さ 20 N のおもりを、A から 1.5 m の点に重さ 40 N のおもりをつるすと、棒は水平に止まりました。糸 A の張力 TA と糸 B の張力 TB を求めなさい。
TA = 25 N、TB = 35 N
力のつり合いから TA + TB = 20 + 40 = 60。A のまわりのモーメントの和 = 0 から、TB × 2.0 − 20 × 0.50 − 40 × 1.5 = 0、TB × 2.0 = 10 + 60 = 70、TB = 35 N。TA = 60 − 35 = 25 N
問5長さ 1.6 m、重さ 50 N の一様な棒があります。棒の端 A を床の上の小さな台にのせ、もう一方の端 B に結んだ糸を鉛直上向きに引いて、棒を水平に止めました。
(1) 糸が B を引く力の大きさを求めなさい。
(2) 台が A を押す力の大きさを求めなさい。
(1) 25 N (2) 25 N
棒にはたらく力は、棒の重力 50 N(棒の真ん中、A から 0.80 m。下向き)、糸が B を引く力 T(上向き)、台が A を押す力 N(上向き。台は A に下から触れている)。A のまわりのモーメントの和 = 0 から、T × 1.6 − 50 × 0.80 = 0、T = 40 ÷ 1.6 = 25 N。力のつり合いから N + T = 50、N = 50 − 25 = 25 N
問6長さ 3.0 m、重さ 200 N の一様な板の両端 A・B を、2つの台で下から支えました。重さ 600 N の人が、A から 1.0 m の所に立っています。台 A が板を押す力 NA と、台 B が板を押す力 NB を求めなさい。
NA = 500 N、NB = 300 N
板にはたらく力は、板の重力 200 N(真ん中、A から 1.5 m。下向き)、人が板を押す力 600 N(A から 1.0 m。下向き)、NA・NB(上向き)。力のつり合いから NA + NB = 200 + 600 = 800。A のまわりのモーメントの和 = 0 から、NB × 3.0 − 200 × 1.5 − 600 × 1.0 = 0、NB × 3.0 = 300 + 600 = 900、NB = 300 N。NA = 800 − 300 = 500 N
公式
物理 第2章 剛体