要点
大きさのある物体の動き方は、力の大きさと向きだけでなく、力がはたらく線(作用線)の位置でも変わります。
物体の運動を考えるとき、物体を大きさのない「点」として扱うことがあります。そのときは、力がどこにはたらくかは考えず、力の大きさと向きだけで、物体が動くか止まっているかを考えます。ところが、本や板のような大きさのある物体では、力を加える位置によって、動き方が変わることがあります。
このページでは、力を加えても形が変わらないとみなす物体を考えます。このような物体を剛体といいます。机の上の本、木の板、金属の棒は、押しても曲がったりへこんだりしないとみなせるので、剛体として扱います。
次の動画では、机の上に置いた同じ本2冊(本 A・本 B)を、真上から見ています。2冊を、同じ向き・同じ大きさの力で、同時に押します。本 A は左の辺の真ん中を、本 B は左の辺の、真ん中から外れた端のほうを押します。
2冊のうち、回るのはどちらだと思いますか。予想してから動画を見てください。
やってみよう
動画を最後まで再生してください。(1) 回ったのはどちらの本ですか。どちら向き(時計回り・反時計回り)に回りましたか。(2) 本 B の「押す点」は、真ん中の十字より上・下のどちらにありましたか。押す点が真ん中より下だったら、本 B はどちら向きに回ると思いますか。
(1) 回ったのは本 B で、時計回りに回りました。本 A はまっすぐ右へ進みました。(2) 上です。下を押すと、反時計回りに回ります(押す力の線が真ん中の下を通るため)。
真ん中を押した本 A は、回らずにまっすぐ右へ進みました。端を押した本 B は、右へ進みながら時計回りに回りました。力の大きさと向きが同じでも、力を加える位置が違うと、剛体の動き方が変わります。
力がはたらく点を作用点といいます。動画では「押す点」が作用点です。作用点を通り、力の向きに引いた線を作用線といいます。動画の押す力は右向きなので、作用線は押す点を通る横の線です。本 A の作用線は本の真ん中を通り、本 B の作用線は真ん中より上を通ります。押す力だけがはたらくとき、作用線が真ん中を通らないと、本は回ります。
剛体では、力の作用点を作用線に沿ってずらしても、力の働きは変わりません。たとえば、本 B の左の辺を右へ押す代わりに、同じ作用線の上にある右の辺の点にひもを結び、同じ大きさの力で右へ引いても、押しはじめの動き方は同じです。いっぽう、作用線そのものを上や下へずらすと、回り方が変わります。
3つとも、力の大きさと向きは同じです。破線は作用線です。
確認
棒の端にひもを結んで引きます。引く向きと力の大きさはそのままで、ひもを長くしました。棒の回り方は変わりますか。
変わりません。ひもが棒を引く力の作用点と向きが同じなので、作用線も同じだからです。
物体を回す働きは「力の大きさ × 軸から作用線までの距離」で決まり、これを力のモーメント M = Fl といいます。
公園のシーソーは、真ん中の支えを中心に回ります。回るときの中心を軸といいます。重さ 400 N の友だちと、重さ 600 N のあなたがシーソーに乗るとします。友だちが軸の左 1.8 m に、あなたが軸の右 1.2 m に座ると、シーソーは水平のまま止まります。
600 N は 400 N の 1.5 倍です。1.8 m は 1.2 m の 1.5 倍です。重いあなたが軸の近くに座れば、軽い友だちと回す働きをそろえることができます。「重さ × 軸からの距離」を計算すると、左は 400 × 1.8 = 720、右は 600 × 1.2 = 720 で、同じです。あなたが軸の右 1.5 m に移ると、右は 600 × 1.5 = 900 で、左の 720 より大きくなります。このときは右が下がります。
座っている人は、自分の重さと同じ大きさの力で、板を下へ押します。止まっている人では、人の重力と、板が人を押し上げる力がつり合っています。人が板を押す力と、板が人を押し上げる力は、2つの物体が押し合う力の組なので、同じ大きさで逆向きです。だから、「重さ × 軸からの距離」は、「人が板を押す力 × 軸からの距離」のことです。
物体を回す働きの大きさを、力のモーメントといいます。略して「モーメント」とも言います。軸から力の作用線までの距離を腕の長さといい、l(エル)で表します。シーソーの板を押す力は真下向きなので、作用線は座った点を通る縦の線で、板が水平のとき、腕の長さは軸から座った点までの距離です。
力の大きさを F とすると、モーメント M は次の式で求めます。
単位は、N(力)と m(距離)を掛けた N·m で、「ニュートンメートル」と読みます。上のシーソーの友だち(400 N、軸の左 1.8 m)のモーメントは、400 N × 1.8 m = 720 N·m です。
モーメントには、物体を回す向きがあります。図で見て、時計の針と逆に回す向きを反時計回り、時計の針と同じに回す向きを時計回りといいます。この資料では、反時計回りに回す向きを正とします。時計回りに回すモーメントには、マイナスを付けます。
上のシーソー(友だち 400 N・1.8 m、あなた 600 N・1.2 m)では、友だちの力は板の左側を下げるので反時計回りで +720 N·m、あなたの力は板の右側を下げるので時計回りで −720 N·m です。2つのモーメントの和が 0 のとき、シーソーは回り出しません。和が正なら反時計回り(左が下がる向き)に、負なら時計回り(右が下がる向き)に回り出します。
次の図で、あなたが座る位置を変えて、シーソーが水平になる位置を探します。図では、友だちは軸の左 1.5 m に座っています。
板の重さは考えません。腕の長さは、板が水平のときの軸からの距離で計算します。
やってみよう
あなたが座る位置を 1.50 m から少しずつ軸に近づけて、シーソーが「水平」になる位置を探してください。そのとき、友だちのモーメントとあなたのモーメントはいくつですか。
1.00 m で水平になります。友だちは +600 N·m、あなたは −600 N·m で、大きさが等しく、和は 0 です。
確認
固いねじをスパナで回します。同じ力で押すなら、柄の根元と端のどちらを持つと楽に回せますか。
端です。軸(ねじ)からの距離が長いほど、同じ力でもモーメントが大きくなるからです。
例題
軸のまわりに回る軽い棒(重さを考えなくてよい棒)があります。軸の右 0.40 m の点を、棒に垂直に下向きに 25 N で押しました。この力のモーメントを、反時計回りを正として求めなさい。
答え: −10 N·m(大きさ 10 N·m、時計回り)
力が斜めのときの腕の長さは、軸から作用点までの距離ではなく、軸から作用線までの距離で、作用点までの距離より短くなります。
ドアは、ちょうつがいを軸として回ります。取っ手に結んだひもを引くとき、ドアに直角に引くと、いちばん楽に開きます。同じ力でも、斜めに引くと開けにくくなります。ドアに沿ってまっすぐ引くと、どれだけ強く引いてもドアは回りません。
腕の長さは「軸から作用線までの距離」でした(項目2)。斜めに引くと、この距離が短くなります。ドアに沿って引くと、作用線がちょうつがいを通るので、腕の長さは 0 です。
棒(ドア)の上の、力がはたらく点を P、軸を O とします。O から作用点 P までの距離を r で表し、「アール」と読みます。r は作用点までの距離で、腕の長さ l(作用線までの距離)とは別のものです。
棒の線と力の作用線が交わると、角が2つできます(2つの角を足すと 180° です)。このページでは、そのうち 90° 以下のほうの角を θ(シータ)とします。
O から作用線へ垂直に線を下ろし、作用線と交わる点を H とします。腕の長さは OH の長さです。三角形 OPH は、H の角が直角の直角三角形です。斜辺は OP(長さ r)で、P の角が θ です。直角三角形では、sin θ(サイン シータ)= 高さ ÷ 斜辺 です。高さは、θ の向かいにある辺です。ここでは θ の向かいの辺が OH なので、腕の長さは l = OH = r sin θ です。
たとえば、長さ 1.0 m の棒の端 P(r = 1.0 m)を、棒と 60° の向きに 10 N で引くとき(sin 60° ≒ 0.866)、腕の長さは l = r sin θ = 1.0 × 0.866 = 0.866 m です。モーメントの大きさは、M = 10 × 0.866 = 8.66 ≒ 8.7 N·m です。与えた数(1.0 m・10 N)が 2 桁なので、答えも 2 桁に丸めます。
腕の長さは OH です。OP ではありません。
同じことを、力を2つに分けて考えることもできます。1つの力は、直角な2つの向きの力(分力)に分けられます。ここでは、棒に垂直な向きと、棒に沿う向きに分けます。棒に垂直な分力は F sin θ、棒に沿う分力は F cos θ(cos θ = 底辺 ÷ 斜辺。コサイン シータと読みます)です。上の例(長さ 1.0 m の棒の端を、棒と 60° の向きに 10 N で引く)では、垂直な分力が 10 × sin 60° ≒ 10 × 0.866 = 8.66 N、沿う分力が 10 × cos 60° = 10 × 0.500 = 5.0 N です(cos 60° = 0.500)。
棒に沿う分力の作用線は、軸 O を通ります。だから、沿う分力のモーメントは 0 で、棒を回しません。
垂直な分力の作用線は棒に直角なので、その腕の長さは r(ここでは 1.0 m)です。モーメントは 8.66 × 1.0 = 8.66 ≒ 8.7 N·m で、腕の長さ(0.866 m)で求めたときと同じになります。
破線の矢印は分力です。
腕の長さで求めても、力を分けて求めても(どちらも 8.66 N·m)、モーメントは F × r × sin θ になりました。
力が棒に直角(θ = 90°)のときは、作用線が棒に直角なので、腕の長さは r そのものです。式 M = Fr sin θ でも同じ値になるように、sin 90° = 1 と決められています。だから M = Fr = Fl で、項目2 の式と同じです。
次の図で、ドアの取っ手を引く向きを変えて、腕の長さとモーメントがどう変わるかを確かめます。
ドアの幅は 0.80 m、ひもが引く力は 20 N です。図の向きは真上から見たものです。
やってみよう
ひもの向きが「ドアに直角(90°)」の状態で、モーメントと腕の長さを読んでください。次に、ひもの向きを「ドアと 30°」に変えてください。(1) モーメントは何 N·m から何 N·m になりましたか。(2) 腕の長さはどうなりましたか。(3) 「ドアと 30°」で、モーメントを +16.0 N·m にするには、何 N で引けばよいですか。
(1) モーメントは +16.0 N·m から +8.0 N·m になり、半分になりました。(2) 腕の長さも 0.80 m から 0.40 m になり、半分です。引く力は同じでも、腕の長さが短くなった分だけ、回す働きが小さくなります。(3) 40 N。腕の長さが 0.40 m なので、16.0 N·m ÷ 0.40 m = 40 N
確認
力の作用線が軸を通るとき、その力のモーメントはいくつですか。
0 です。腕の長さが 0 になるからです。
例題
軸 O のまわりに回る長さ 1.5 m の棒があります。O と反対側の端を、棒と 30° の向きに 40 N で引きました。この力のモーメントの大きさを求めなさい(sin 30° = 0.500)。
解き方(腕の長さで求める)
解き方(分力で求める)
答え: 30 N·m
力の大きさの単位は N、モーメントの単位は N·m です。反時計回りに回す向きを正とします。重さは N で与えるので、重力加速度は使いません。三角比は sin 30° = 0.500、sin 60° ≒ 0.866 を使います。
問1シーソーの軸の左 1.5 m に重さ 400 N の友だちが、軸の右 2.0 m に重さ 600 N のあなたが座っています。板の重さは考えません。
(1) 友だちが板を押す力のモーメントと、あなたが板を押す力のモーメントを、反時計回りを正として求めなさい。
(2) シーソーは、どちらの側が下がるように回り出しますか。
(1) 友だち +600 N·m、あなた −1200 N·m (2) あなたの側(右)
(1) 人が板を押す力は、その人の重さと同じ大きさで真下向き。友だち: 400 × 1.5 = 600 N·m、板の左側を下げるので反時計回りで +600 N·m。あなた: 600 × 2.0 = 1200 N·m、板の右側を下げるので時計回りで −1200 N·m。(2) 和は 600 − 1200 = −600 N·m で負なので、時計回り(右が下がる向き)に回り出す
(項目2の図。あなたが座る位置を 2.00 m にすると、友だち +600 N·m、あなた −1200 N·m、「右(あなたの側)が下がる」と表示されます)
問2軸のまわりに回る軽い棒があります。軸の左 0.30 m の点を、棒に垂直に下向きに 40 N で押し、同時に、軸の右 0.50 m の点を、棒に垂直に上向きに 20 N で押しました。
(1) 2つの力のモーメントを、それぞれ反時計回りを正として求めなさい。
(2) モーメントの和を求め、棒がどちら向きに回り出すかを答えなさい。
(1) 左の力 +12 N·m、右の力 +10 N·m (2) 和は +22 N·m で、反時計回りに回り出す
(1) どちらの力も棒に垂直なので、腕の長さは軸からの距離。左の力: 40 × 0.30 = 12 N·m。軸の左側を下へ押すと反時計回りなので +12 N·m。右の力: 20 × 0.50 = 10 N·m。軸の右側を上へ押すと、これも反時計回りなので +10 N·m。(2) 和は 12 + 10 = +22 N·m で正なので、反時計回りに回り出す
問3幅 0.80 m のドアを真上から見ます。ちょうつがいから 0.80 m の取っ手にひもを結び、20 N で引きます。ひもはドアと 60° の角をなし、ちょうつがいの側へ傾いています。この力のモーメントの大きさを求めなさい。
約 14 N·m
軸から作用点までの距離は r = 0.80 m。θ はドアと作用線の間の 90° 以下の角なので θ = 60°。腕の長さは l = r sin θ = 0.80 × sin 60° ≒ 0.80 × 0.866 = 0.6928 m。M = Fr sin θ = 20 × 0.6928 = 13.856 ≒ 14 N·m。(分力で: ドアに垂直な分力 20 × 0.866 = 17.32 N、M = 17.32 × 0.80 = 13.856 ≒ 14 N·m。ちょうつがいの側へ傾いていても、反対側へ 60° 傾いているときと同じ大きさです)
(項目3の図。ひもの向きを「ドアと 60°(ちょうつがいの側へ)」にすると、腕の長さ 0.69 m、M = +13.9 N·m)
問4軸 O のまわりに回る、長さ 1.0 m の軽い棒が水平になっています。O は棒の左の端です。棒の右の端 P を、棒と 30° をなす右上の向きに 30 N で引き、同時に、O から 0.50 m の点 Q を、棒に垂直に下向きに 20 N で押しました。
(1) P を引く力と、Q を押す力のモーメントを、それぞれ反時計回りを正として求めなさい。
(2) モーメントの和を求め、棒がどちら向きに回り出すかを答えなさい。
(1) P を引く力 +15 N·m、Q を押す力 −10 N·m (2) 和は +5.0 N·m で、反時計回りに回り出す
(1) P を引く力: r = 1.0 m、θ = 30° なので、M = Fr sin θ = 30 × 1.0 × sin 30° = 30 × 1.0 × 0.500 = 15 N·m。右の端を上向きの成分で持ち上げるので反時計回りで +15 N·m。Q を押す力: 棒に垂直なので腕の長さは 0.50 m、20 × 0.50 = 10 N·m。軸の右側を下へ押すので時計回りで −10 N·m。(2) 和は 15 − 10 = +5.0 N·m で正なので、反時計回りに回り出す
要点
物理 第2章 剛体