要点
剛体のつり合いの問題は、「力をすべて描く → 力のつり合い → 軸を選んでモーメント」の順で解きます。
壁に取り付ける折りたたみの棚があります。棚板の奥の端をちょうつがいで壁に留め、手前の端をくさりで斜め上の壁につないで、棚板を水平に支えます。ちょうつがいは、ドアを壁に留めている金具と同じです。棚板は、ちょうつがいを軸にして回ることができます。
この棚板を、一様な(太さと材質がどこも同じ)棒とみなします。一様な棒の重心は、棒の真ん中です。くさりは、糸とみなします。棒は、力を加えても形が変わらない物体として扱います。このような物体を剛体といいます。この棒が止まっているとき、糸の張力と、ちょうつがいから棒が受ける力を求めます。
止まっている剛体では、合力が 0 で、どの点のまわりで考えてもモーメントの和が 0 です。力のモーメントは M = Fl です。F は力の大きさ、l は軸から力の作用線までの距離(腕の長さ)です。作用線は、力の矢印をその向きにのばした直線です。反時計回りに回す向きを正とします。
糸は、糸に沿う向きにしか棒を引けません。だから張力の向きは分かっています。ちょうつがいから棒が受ける力の向きは、棒の重さや糸の向きで決まり、棒に沿うとは限りません。向きが分からないので、水平の成分を Rx、鉛直の成分を Ry と書いて、別々に求めます。R の右下の小さな x・y は、水平・鉛直の成分であることを表します。成分の向きは、仮に決めて図に描いておきます。この項目では、Rx を右向き、Ry を上向きに描きます。計算で正の値が出たら、仮に決めた向きのとおりです。負の値が出たら、逆向きだったということです。
知らない力は、張力 T、Rx、Ry の3つです。力のつり合いの式は、水平と鉛直の2つしかないので、それだけでは3つを求められません。そこで、モーメントの式を足します。軸はどこに取ってもよいので、ちょうつがいを軸にします。ちょうつがいの力は軸を通るので、腕の長さが 0 で、モーメントも 0 です。だから、モーメントの式には T だけが残り、すぐに T が求まります。
ちょうつがいの力は向きが分からないので、水平の成分 Rx と鉛直の成分 Ry に分けて、仮の向きで描いています。
確認
ちょうつがいから棒が受ける力は、いつも棒に沿った向きですか。
いいえ。棒に沿うとは限りません。
例題
重さ 20 N、長さ 1.0 m の一様な棒の左端を、鉛直な壁にちょうつがいで留めました。棒の右端に糸を付け、糸と棒の間の角が 30° になるように壁へ結ぶと、棒は水平に止まりました。糸の張力 T と、ちょうつがいから棒が受ける力の水平の成分 Rx・鉛直の成分 Ry を求めなさい。sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866 とします。
答え: T = 20 N、Rx ≒ 17 N(右向き)、Ry = 10 N(上向き)
立てかけた棒は、下端(床に触れる点)を軸にしてモーメントを考えます。止めるのに要る摩擦力が、床が出せる最大の摩擦力以下なら、棒はすべりません。
はしごを部屋の壁に立てかけるとき、下の端(下端)を壁から離しすぎると、下端がすべってはしごが倒れます。この項目の図で、下端を壁から何 m 離すとすべり出すのかを探します。
はしごは、長さ 5.0 m、重さ 40 N の一様な棒とみなします。重心は真ん中です。壁はなめらかで、摩擦はありません。床はあらく、静止摩擦係数は μ(ミュー)= 0.50 です。
はしごにはたらく力は、次の4つです。
N1・N2 の小さな数字は、2つの垂直抗力を区別する番号です(1 は床、2 は壁)。
鉛直の力は、N1(上向き)と重力 40 N(下向き)だけです。だから N1 = 40 N です。水平の力は、f(左向き)と N2(右向き)だけです。だから f = N2 です。N2 の大きさは、力のつり合いだけでは決まりません。モーメントの式を使います。
下端を軸にすると、そこを通る N1 と f のモーメントが 0 になり、式から消えます。残るのは、重力と N2 のモーメントです。
下端を壁から 3.0 m 離したときで考えます。長さ 5.0 m のはしごなので、上端の高さは 4.0 m です(辺が 3 : 4 : 5 の直角三角形)。重力は鉛直な向きなので、作用線は重心を通る鉛直な線です。腕の長さは、下端から重心までの「水平の距離」です。重心ははしごの真ん中なので、下端から壁のほうへ 3.0 ÷ 2 = 1.5 m です。N2 は水平な向きなので、作用線は上端を通る水平な線です。腕の長さは、下端から上端までの「高さ」の 4.0 m です。どちらの腕の長さも、三角比を使わずに、水平の距離と高さから読めます。
重力は、下端より左(壁の側)で下向きなので、反時計回りで +40 × 1.5 = +60 N·m です。N2 は、下端より上で右向きなので、時計回りで −N2 × 4.0 です。和が 0 なので、60 − N2 × 4.0 = 0 で、N2 = 60 ÷ 4.0 = 15 N です。水平の力のつり合いの f = N2 から、止めるのに要る摩擦力も f = 15 N です。
静止摩擦力には上限があります。その上限を最大摩擦力といい、μN(N は床の垂直抗力の大きさ)で求めます。床が出せる最大の摩擦力は、μN1 = 0.50 × 40 = 20 N です。止めるのに要る摩擦力 f が、μN1 以下なら、はしごはすべりません。式で書くと f ≦ μN1 です(≦ は「以下」の意味)。下端が壁から 3.0 m のときは、15 N ≦ 20 N なので、すべりません。
次の図で、下端を壁から離していき、すべり出す距離を探します。
はしごの重さは 40 N、床の垂直抗力 N1 はいつも 40.0 N、床が出せる最大の摩擦力は 0.50 × 40 = 20.0 N です。すべる動きは様子を表したもので、速さは実際とは違います。
やってみよう
下端と壁の距離 d を 1.0 m にしてから、1.0 m ずつ離していってください。はしごがすべり出したのは、d が何 m のときですか。そのとき、止めるのに要る摩擦力 f はいくつでしたか。
d = 4.0 m ですべり出しました。そのとき f = 26.7 N で、床が出せる最大の摩擦力 20.0 N を超えていました。3.0 m ではすべらず 4.0 m ですべったので、すべり出す境目は 3.0 m と 4.0 m の間にあります。
確認
立てかけたはしごの下端を壁から遠ざけるほど、すべりやすくなるのはなぜですか。
重力の腕(水平の距離)が長くなり、N2 の腕(高さ)が短くなるので、要る N2 が大きくなります。f = N2 なので、要る摩擦力も大きくなるからです。
例題
長さ 2.5 m、重さ 80 N の一様なはしごを、なめらかな鉛直の壁に立てかけました。下端は壁から 1.5 m、上端の高さは 2.0 m です。床の静止摩擦係数は 0.40 です。
(1) 壁の垂直抗力 N2、床の垂直抗力 N1、床の静止摩擦力 f を求めなさい。
(2) はしごはすべりませんか。
答え: (1) N2 = 30 N、N1 = 80 N、f = 30 N (2) すべらない(要る摩擦力 30 N が、最大の摩擦力 32 N 以下のため)
重力加速度は使いません。重さは N で与えます。棒・はしごは形が変わらない剛体とし、一様なものの重心は真ん中にあるとします。モーメントは反時計回りを正とします。三角比は sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866 を使います。有効数字は 2 桁で答えます。
問1重さ 30 N、長さ 1.6 m の一様な棒の左端を、鉛直な壁にちょうつがいで留めました。左端から 1.2 m の所に鉛直な糸を付けて天井からつるすと、棒は水平に止まりました。糸の張力 T と、ちょうつがいから棒が受ける力を求めなさい。
T = 20 N、ちょうつがいから棒が受ける力は上向きに 10 N(水平の成分は 0)
ちょうつがいの力を、水平の成分 Rx(仮に右向き)と鉛直の成分 Ry(仮に上向き)に分けて置く。ちょうつがいを軸にすると Rx・Ry は消える。重力は軸から右へ 0.80 m(1.6 ÷ 2)で下向きなので −30 × 0.80 = −24 N·m。張力は軸から右へ 1.2 m で上向きなので +T × 1.2。−24 + T × 1.2 = 0 から T = 24 ÷ 1.2 = 20 N。水平の力は Rx のほかにないので Rx = 0。鉛直の力のつり合いから Ry + 20 = 30 で Ry = 10 N(正なので上向き)
問2重さ 20 N、長さ 1.2 m の一様な棒の左端を、鉛直な壁にちょうつがいで留めました。左端から 0.90 m の所に、重さ 40 N のおもりをつるします。棒の右端に糸を付け、糸と棒の間の角が 30° になるように壁へ結ぶと、棒は水平に止まりました。糸の張力 T と、ちょうつがいから棒が受ける力の水平の成分 Rx・鉛直の成分 Ry を求めなさい。
T = 80 N、Rx ≒ 69 N(右向き)、Ry = 20 N(上向き)
棒にはたらく力は、棒の重力 20 N(真ん中、左端から 0.60 m)、おもりの糸が棒を引く力 40 N(左端から 0.90 m、下向き)、張力 T(右端)、Rx(仮に右向き)・Ry(仮に上向き)(左端)。張力を、上向きの成分 0.500T と左向きの成分 0.866T に分ける。ちょうつがいを軸にすると、Rx・Ry と、張力の左向きの成分(作用線が棒に沿って軸を通る)は消える。−20 × 0.60 − 40 × 0.90 + 0.500T × 1.2 = 0 から、−12 − 36 + 0.60T = 0、T = 48 ÷ 0.60 = 80 N。水平の力のつり合いから Rx = T cos 30° ≒ 0.866 × 80 = 69.28 ≒ 69 N(正なので右向き)。鉛直の力のつり合いから Ry + 0.500 × 80 = 20 + 40 で、Ry = 60 − 40 = 20 N(正なので上向き)。おもりの重力 40 N を、おもりをつるした位置の下向きの力として入れるのがポイント
問3長さ 2.0 m、重さ 30 N の一様な棒を、なめらかな鉛直の壁に立てかけました。下端は壁から 1.6 m、上端の高さは 1.2 m です。棒はすべらずに止まっています。壁の垂直抗力 N2、床の垂直抗力 N1、床の静止摩擦力 f の大きさを求めなさい。
N2 = 20 N、N1 = 30 N、f = 20 N
鉛直の力のつり合いから N1 = 30 N。下端を軸にすると N1 と f は消える。重力の腕は下端から重心までの水平の距離で 1.6 ÷ 2 = 0.80 m、重力のモーメントは +30 × 0.80 = +24 N·m。N2 の腕は上端の高さ 1.2 m で、モーメントは −N2 × 1.2。24 − N2 × 1.2 = 0 から N2 = 24 ÷ 1.2 = 20 N。水平の力のつり合いから f = N2 = 20 N
問4長さ 5.0 m、重さ 40 N の一様なはしごを、なめらかな鉛直の壁に立てかけました。下端は壁から 3.0 m、上端の高さは 4.0 m で、床の静止摩擦係数は 0.50 です。重さ 80 N の人が、このはしごを下からのぼります。はしごがすべらずにいられるのは、人が床から何 m の高さにいるときまでですか。人は、はしごの上の1点にいるとみなします。
3.0 m
人のいる高さを y とする。はしごは 4.0 m 上がる間に、壁のほうへ 3.0 m 寄るので、高さ y の点は、下端から壁のほうへ 3.0 × y ÷ 4.0 = 0.75y の所にある。鉛直の力のつり合いから N1 = 40 + 80 = 120 N で、床が出せる最大の摩擦力は μN1 = 0.50 × 120 = 60 N。下端を軸にすると、はしごの重力は +40 × 1.5 = +60 N·m、人の重力は +80 × 0.75y = +60y、N2 は −N2 × 4.0。60 + 60y − 4.0N2 = 0 から N2 = 15 + 15y。水平の力のつり合いから f = N2 = 15 + 15y。すべらない条件 f ≦ 60 から 15 + 15y ≦ 60、15y ≦ 45、y ≦ 3.0 m。人が高くのぼるほど、人の重力の腕が長くなり、要る摩擦力が大きくなる。人の重さで N1 も大きくなる(最大の摩擦力も変わる)ことに注意
要点
物理 第2章 剛体