ゼロからの高校物理 / 物理 / 剛体

剛体のつり合い(倒れる条件)

要点

力のモーメントM = Fll は腕の長さ。反時計回りを正
剛体のつり合い合力 = 0、モーメントの和 = 0
倒れはじめ垂直抗力の作用点が底面の端に来る
すべるか倒れるかすべりだす力 μN と倒れはじめる力の、小さいほうの出来事が先に起きる

1倒れる条件

押す力を大きくすると、垂直抗力の作用点が押す向きの端へ動き、端に来たときが倒れはじめです。

背の高い箱の上のほうを横から押すと、箱はすべる前に、底の角を中心に傾いて倒れることがあります。この項目の図で、押す力が何 N になると倒れはじめるのかを探します。

床に立てた細長い箱の上のほうを、人が横から押す。箱は右下の角を中心に傾き、右へ倒れて床に横たわる
箱のようす 倒れた

動きの速さは実際とは違います。

床に立てた細長い箱を考えます。幅 0.40 m、高さ 1.0 m、重さ 60 N で、重心は箱の真ん中にあります。箱の左の面の、床から 0.80 m の高さを、右向きに水平に押します。押す力を F とします。この項目では、床は十分にあらく、箱はすべらないとします。

箱は、力を加えても形が変わらない物体(剛体)として扱います。止まっている剛体では、合力が 0 で、どの点のまわりで考えてもモーメントの和が 0 です。力のモーメントは、力の大きさ × 腕の長さ(軸から力の作用線までの距離)です。作用線は、力の矢印をその向きにのばした直線です。反時計回りに回す向きを正とします。

床は、箱の底面全体を押しています。この力を全部まとめて、1本の垂直抗力 N として描きます。物体のあちこちにはたらく重力を、重心にはたらく1本の力にまとめて描くのと同じ考え方です。まとめた垂直抗力の作用点は、底面の上のどこかにあります。その位置は、押す力によって変わります。

押す力が 0 のとき、箱にはたらく力は重力と垂直抗力の2つだけです。鉛直の力のつり合いから、垂直抗力は重さと同じ 60 N です。同じ大きさで逆向きの2つの力でも、作用線がずれていると、合力は 0 なのに箱を回してしまいます。箱は止まっているので、垂直抗力は重力と同じ作用線の上にはたらきます。その作用線は、底面の真ん中を通ります。

箱を右へ押すと、箱はすべらないので、床から左向きの静止摩擦力 f がはたらきます。大きさは F と同じです。押す力 F は高い所を右へ押すので、箱を時計回りに回そうとします。箱が回らないためには、反時計回りのモーメントが要ります。だから、垂直抗力の作用点が、底面の真ん中より右(押す向き)へずれます。

F = 5.0 N のときで、作用点のずれを求めます。底面の真ん中の点を軸にします。重力の作用線と摩擦力の作用線は、どちらもこの点を通るので、モーメントは 0 です。押す力は、軸より 0.80 m 上で右向きなので、時計回りで −5.0 × 0.80 = −4.0 N·m です。鉛直の力のつり合いから N = 60 N です。作用点が真ん中から右へ x の所なら、垂直抗力のモーメントは反時計回りで +60 × x です。和が 0 なので、60 × x = 4.0 で、x = 4.0 ÷ 60 ≒ 0.067 m です。

F を大きくするほど、作用点は右へ動きます。しかし、作用点は底面の外には出られません。床が箱を押せるのは、箱と床が触れている所だけだからです。作用点がちょうど底面の右の端に来たときが、箱が倒れずにいられる限界です。このときを倒れはじめといいます。それより強く押すと、反時計回りのモーメントが足りなくなり、箱は右下の角を中心に傾いて倒れます。

倒れはじめのときは、右下の角のまわりで、モーメントの和 = 0 の式を立てます。垂直抗力も摩擦力も右下の角を通るので、式から消えます。残るのは、重力と押す力のモーメントです。重力の腕は、重心から右の端までの水平の距離で、0.40 ÷ 2 = 0.20 m です。重力のモーメントは、反時計回りで +60 × 0.20 = +12 N·m です。押す力の腕は、押す高さです。押す力のモーメントの大きさが 12 N·m になる F が、倒れはじめる力です。

次の図で、押す力を大きくしていき、倒れはじめる力を探します。

水平な床の上に、幅 0.40 m、高さ 1.0 m の細長い箱を横から見た図。箱の左の面に高さの目盛り(0〜1.0 m)、高さ 0.80 m に押す点。押す点から右向きに手が押す力 F、重心から下向きに重力 60 N、底面の作用点から上向きに垂直抗力 N = 60 N、底面の右の端から左向きに摩擦力 f の矢印。底面の下に、作用点の位置を読む目盛り(左の端・真ん中・右の端)。押す力が大きすぎると、箱は右下の角を中心に右へ倒れる 床は十分にあらく、箱はすべりません 手が押す力 F 重力60 N 垂直抗力N = 60 N 摩擦力 f

垂直抗力 N は、床が底面を押す力をまとめた1本です。重力と垂直抗力(どちらも 60 N)の矢印は、押す力・摩擦力とは別の縮尺で、短く描いています。倒れる動きは様子を表したもので、速さは実際とは違います。

押す力 F = 垂直抗力の作用点 箱のようす

やってみよう

押す力 F を 0.0 N にしてから、2.5 N ずつ大きくしてください。垂直抗力の矢印が底面の右の端に来て、「倒れはじめ」と出たのは、F が何 N のときですか。

分かること

F = 15.0 N のときです。17.5 N にすると、箱は右下の角を中心に倒れました。

確認

箱が倒れはじめるとき、垂直抗力はどこにはたらいていますか。

答え

底面の、倒れる向き(押す向き)の端です。

例題

幅 0.40 m、高さ 1.0 m、重さ 60 N の一様な直方体の箱が、床に立っています。箱の左の面の、床から 0.60 m の高さを、右向きに水平に押していきます。床は十分にあらく、箱はすべりません。箱が倒れはじめるのは、押す力が何 N のときですか。

  1. 箱にはたらく力は、重力 60 N(真ん中)、押す力 F(高さ 0.60 m、右向き)、垂直抗力 N と摩擦力 f(底面)です。
  2. 倒れはじめのとき、垂直抗力の作用点は、押す向きの端(右下の角)に来ています。
  3. 右下の角を軸にします。N と f は軸を通るので、モーメントの式に出てきません。
  4. 重力の腕は、重心から右の端までの水平の距離で、0.40 ÷ 2 = 0.20 m です。重力のモーメントは +60 × 0.20 = +12 N·m です。
  5. 押す力の腕は、押す高さの 0.60 m です。押す力のモーメントは −F × 0.60 です。
  6. 12 − F × 0.60 = 0 なので、F = 12 ÷ 0.60 = 20 N です。

答え: 20 N

2すべるか倒れるか

押す力を大きくしていくときは、すべりだす力と倒れはじめる力を両方求めます。押す力は小さいほうに先に届き、そちらが先に起きます。

項目1では、床が十分にあらく、箱はすべらないとしました。実際の床では、押す力を大きくしていくと、箱がすべりだすこともあります。同じ箱を同じ高さで押しても、つるつるの床ではすべり、ざらざらの床では倒れる、ということが起きます。押す力が、すべりだす力と倒れはじめる力のどちらかに先に届くと、そちらが起きます。

同じ箱を同じ高さで横から押した2つの場合。つるつるの床では箱がすべって右へずれ、ざらざらの床では箱が右下の角を中心に傾いて倒れかけている つるつるの床: すべる ざらざらの床: 倒れる

箱がすべらない間は、静止摩擦力 f は押す力 F と同じ大きさです。静止摩擦力には上限があります。その上限を最大摩擦力といい、μN で求めます。μ(ミュー)は床の静止摩擦係数、N は床の垂直抗力の大きさです。F が μN を超えると、摩擦力が足りなくなり、箱はすべりだします。箱の重さが 60 N なら、床の垂直抗力は N = 60 N です。すべりだす力は μ × 60 です。

倒れはじめる力は、項目1と同じく、右下の角のまわりのモーメントで求めます。重力のモーメントは +60 × 0.20 = +12 N·m(腕は箱の幅の半分 0.20 m)なので、押す力のモーメント F × (押す高さ)が 12 N·m になる F です。

項目1の箱(幅 0.40 m、高さ 1.0 m、重さ 60 N)を、静止摩擦係数 0.50 の床に置き、高さ 0.80 m を押していくとします。すべりだす力は、μN = 0.50 × 60 = 30 N です。倒れはじめる力は、F × 0.80 = 12 から、F = 12 ÷ 0.80 = 15 N です。押す力を 0 から大きくしていくと、先に 15 N に届きます。だから、この箱はすべる前に倒れます。

床の種類と押す高さを変えると、どちらが先に起きるかが変わることがあります。次の図で、押す高さを変えて押し、箱がすべるか倒れるかを見ます。

水平な床の上に、幅 0.40 m、高さ 1.0 m、重さ 60 N の箱を横から見た図。床は、つるつるの床(細い横線の模様)か、ざらざらの床(細かい点の模様)。箱の左の面に高さの目盛り(0〜1.0 m)と押す点。「押す」を押すと、押す力 F の矢印と摩擦力 f の矢印がのび、垂直抗力 N の矢印が右へ動く。そのあと箱は、右へすべるか、右下の角を中心に倒れる つるつるの床(μ = 0.30) ざらざらの床(μ = 0.50) はじめの位置 手が押す力 F 重力60 N 垂直抗力N = 60 N 摩擦力 f

重力と垂直抗力(どちらも 60 N)の矢印は、押す力・摩擦力とは別の縮尺で、短く描いています。すべるときは、すべり出したところで押すのをやめたとしています。すべる・倒れる動きは様子を表したもので、速さは実際とは違います。

押す力 F = 0.0 N 結果 —

やってみよう

「つるつるの床」のボタンと「0.80 m」のボタンを押してから、「押す」を押してください。次に、「0.50 m」のボタンを押して、もう一度「押す」を押してください。それぞれ、箱はすべりましたか、倒れましたか。何 N のときでしたか。

分かること

0.80 m では倒れました(15.0 N)。倒れはじめる力 15.0 N が、すべりだす力 18.0 N より小さいからです。0.50 m ではすべりました(18.0 N)。押す高さを変えただけで、起きることが入れ替わりました。

確認

押す位置を低くすると、箱が倒れにくくなるのはなぜですか。

答え

押す力の腕(押す高さ)が短くなるので、重力のモーメントにつり合うのに、より大きな押す力が要るからです。

例題

幅 0.40 m、高さ 1.0 m、重さ 60 N の一様な直方体の箱を、静止摩擦係数 0.50 の床に置きました。箱の左の面の、床から 0.50 m の高さを、右向きに水平に押していき、押す力を少しずつ大きくします。箱は、すべりだすのと倒れはじめるのと、どちらが先ですか。また、それは押す力が何 N のときですか。

  1. 鉛直の力のつり合いから、床の垂直抗力は N = 60 N です。
  2. すべりだす力は、最大摩擦力の μN = 0.50 × 60 = 30 N です。
  3. 倒れはじめる力は、右下の角のまわりのモーメントで求めます。重力のモーメントは +60 × 0.20 = +12 N·m、押す力のモーメントは −F × 0.50 です。
  4. 12 − F × 0.50 = 0 なので、F = 12 ÷ 0.50 = 24 N です。
  5. 押す力を 0 から大きくしていくと、30 N より先に 24 N に届きます。

答え: 倒れはじめるのが先で、押す力が 24 N のとき

練習問題

重力加速度は使いません。重さは N で与えます。箱は形が変わらない一様な直方体とし、重心は箱の真ん中にあるとします。押す力は水平で、箱の左の面を右向きに押します。モーメントは反時計回りを正とします。有効数字は 2 桁で答えます。

パターン1 倒れる条件

問1幅 0.60 m、高さ 1.2 m、重さ 90 N の一様な直方体の箱が、床に立っています。箱の左の面の、床から 0.90 m の高さを押していきます。床は十分にあらく、箱はすべりません。箱が倒れはじめるのは、押す力が何 N のときですか。

F 0.90 m 1.2 m 0.60 m
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30 N

倒れはじめのとき、垂直抗力の作用点は右下の角にある。右下の角を軸にすると、垂直抗力と摩擦力は消える。重力の腕は 0.60 ÷ 2 = 0.30 m で、重力のモーメントは +90 × 0.30 = +27 N·m。押す力のモーメントは −F × 0.90。27 − F × 0.90 = 0 から F = 27 ÷ 0.90 = 30 N

問2幅 0.50 m、高さ 1.0 m、重さ 80 N の一様な直方体の箱が、床に立っています。床は十分にあらく、箱はすべりません。箱の左の面の、床から 0.50 m の高さを、16 N の力で押しています。
(1) 床の垂直抗力の作用点は、底面の真ん中から押す向きへ何 m の所にありますか。
(2) この高さを押すとき、箱が倒れはじめるのは、押す力が何 N のときですか。

F = 16 N 真ん中 0.50 m 1.0 m 0.50 m
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(1) 0.10 m (2) 40 N

(1) 鉛直の力のつり合いから N = 80 N。底面の真ん中を軸にすると、重力と摩擦力の作用線はこの点を通るので消える。押す力のモーメントは −16 × 0.50 = −8.0 N·m。作用点が真ん中から右へ x の所なら、垂直抗力のモーメントは +80 × x。80 × x = 8.0 から x = 0.10 m。底面の端(真ん中から 0.25 m)より内側なので、箱は立っている。(2) 右下の角を軸にすると、重力のモーメントは +80 × 0.25 = +20 N·m(腕は 0.50 ÷ 2 = 0.25 m)、押す力のモーメントは −F × 0.50。20 − F × 0.50 = 0 から F = 20 ÷ 0.50 = 40 N

パターン2 すべるか倒れるか

問3幅 0.60 m、高さ 1.5 m、重さ 50 N の一様な直方体の箱を、静止摩擦係数 0.40 の床に置きました。箱の左の面の、床から 1.0 m の高さを押していき、押す力を少しずつ大きくします。箱は、すべりだすのと倒れはじめるのと、どちらが先ですか。また、それは押す力が何 N のときですか。

F μ = 0.40 1.0 m 1.5 m 0.60 m
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倒れはじめるのが先で、押す力が 15 N のとき

N = 50 N なので、すべりだす力は μN = 0.40 × 50 = 20 N。倒れはじめる力は、右下の角のまわりで、重力のモーメント +50 × 0.30 = +15 N·m(腕は 0.60 ÷ 2 = 0.30 m)と押す力のモーメント −F × 1.0 の和が 0 になるときで、F = 15 ÷ 1.0 = 15 N。15 N < 20 N なので、倒れはじめるのが先

問4幅 0.50 m、高さ 1.2 m、重さ 80 N の一様な直方体の箱を、静止摩擦係数 0.50 の床に置きました。箱の左の面を押していきます。
(1) 床から 0.80 m の高さを押すとき、箱はすべりだすのと倒れはじめるのと、どちらが先ですか。また、それは押す力が何 N のときですか。
(2) 倒れる前にすべりだすようにするには、床から何 m より低い所を押せばよいですか。

F μ = 0.50 1.2 m 0.50 m
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(1) 倒れはじめるのが先で、押す力が 25 N のとき (2) 0.50 m より低い所

(1) N = 80 N なので、すべりだす力は μN = 0.50 × 80 = 40 N。倒れはじめる力は、右下の角のまわりで、重力のモーメント +80 × 0.25 = +20 N·m(腕は 0.50 ÷ 2 = 0.25 m)と押す力のモーメント −F × 0.80 の和が 0 になるときで、F = 20 ÷ 0.80 = 25 N。25 N < 40 N なので、倒れはじめるのが先。(2) すべりだす力は押す高さによらず 40 N。押す高さを h とすると、倒れはじめる力は 20 ÷ h。倒れる前にすべりだすには、倒れはじめる力が 40 N より大きければよいので、20 ÷ h > 40、h < 20 ÷ 40 = 0.50 m

つまずきやすいところ

まとめ

要点

力のモーメントM = Fll は腕の長さ。反時計回りを正
剛体のつり合い合力 = 0、モーメントの和 = 0
倒れはじめ垂直抗力の作用点が底面の端に来る
すべるか倒れるかすべりだす力 μN と倒れはじめる力の、小さいほうの出来事が先に起きる

物理 第2章 剛体

  1. 剛体のつり合い(力のモーメント)
  2. 偶力と剛体のつり合いの条件
  3. 剛体のつり合い(重心)
  4. 剛体のつり合い(応用)
  5. 剛体のつり合い(倒れる条件)

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