要点
運動エネルギーと位置エネルギーの和を力学的エネルギーといい、自由落下では、ボールが落ちても力学的エネルギーは変わりません。
質量 m の物体の運動エネルギーは K = 12mv2(v は速さ)、重力による位置エネルギーは U = mgh です。g = 9.8 m/s2 は重力加速度の大きさです。U = mgh の h は、基準面(高さ 0 と決めた面)からの高さです。この項目では、地面を基準面とします。
運動エネルギーと位置エネルギーの和を、力学的エネルギーといいます。力学的エネルギーは、記号 E で表します。
地面から高さ 25 m の所から、質量 1.0 kg のボールを静かに放します。このページでは、空気の抵抗は考えません。だから、ボールは自由落下します。自由落下では、放してから t 秒間に落ちる距離は 12gt2、t 秒後の速さは gt です。放してから 1.0 s 後には、ボールは 12 × 9.8 × 1.02 = 4.9 m 落ちています。だから、地面からの高さは 25 − 4.9 = 20.1 m です。速さは v = 9.8 × 1.0 = 9.8 m/s です。
時刻は実際の時刻です(1/2 の速さで動きます)。空気の抵抗は考えません。
0 s、1.0 s、2.0 s と、地面に着く直前(約 2.26 s)のときの、高さ・速さと3つのエネルギーは、次の表のようになります。エネルギーは、1 J 単位に丸めています。計算の流れを見せるため、高さは丸めずに書きます。
| 時刻 t [s] | 0 | 1.0 | 2.0 | 2.26 (地面に 着く直前) |
|---|---|---|---|---|
| 高さ h [m] | 25.0 | 20.1 | 5.4 | 0.0 |
| 速さ v [m/s] | 0 | 9.8 | 19.6 | 22.1 |
| 運動エネルギー K [J] | 0 | 48 | 192 | 245 |
| 位置エネルギー U [J] | 245 | 197 | 53 | 0 |
| 力学的エネルギー E [J] | 245 | 245 | 245 | 245 |
たとえば 1.0 s の列では、K = 12 × 1.0 × 9.82 = 48.02 ≒ 48 J、U = 1.0 × 9.8 × 20.1 = 196.98 ≒ 197 J です。和は E = 48 + 197 = 245 J です。
0 s から 1.0 s の間に、K は 0 J から 48 J へ、48 J 増えました。同じ間に、U は 245 J から 197 J へ、48 J 減りました。1.0 s から 2.0 s の間も、K は 144 J 増え、U は 144 J 減りました。2.0 s から地面に着く直前までは、K は 53 J 増え、U は 53 J 減りました。K が増えた分と、U が減った分が同じなので、和の E は 245 J のまま変わりません。
0 s から 1.0 s の間に、ボールは重力(下向きに 1.0 × 9.8 = 9.8 N)の向きに 4.9 m 動きました。仕事は「力の大きさ × 力の向きに動いた距離」なので、重力がボールにした仕事は、W = 9.8 × 4.9 = 48.02 ≒ 48 J です。物体の運動エネルギーは、された仕事の分だけ変わります(12mv2 − 12mv02 = W。v0 は仕事をされる前の速さ)。だから K は 48 J 増えます。一方、高さが 4.9 m 下がったので、U = mgh は 1.0 × 9.8 × 4.9 ≒ 48 J 減ります。重力がした仕事の分だけ、U が K に移ったと考えることができます。
このように、重力だけが仕事をするとき、力学的エネルギーは一定に保たれます。これを力学的エネルギー保存の法則といいます。「保存」とは、変わらずに保たれることです。
保存の法則を式で書くときは、はじめの場面と後の場面を、小さな数字で区別します。v1・h1 ははじめの速さと高さ、v2・h2 は後の速さと高さです。小さい数字は、区別するための番号です。
はじめの力学的エネルギーと、後の力学的エネルギーが等しいので、次の式が成り立ちます。
地面を基準面としています。空気の抵抗は考えません。
やってみよう
時刻 t を 0.5 s から 1.5 s に変えてください。運動エネルギー K と位置エネルギー U は、それぞれ増えましたか、減りましたか。力学的エネルギー E はどうなりましたか。
K は 12 J から 108 J に増え、U は 233 J から 137 J に減りました。増えた分も減った分も 96 J で、E は 245 J のままです。
確認
ボールが落ちていくと、位置エネルギーは減ります。減った分は、どこへ行きますか。
運動エネルギーになります。減った分と同じだけ、運動エネルギーが増えます。
例題
地面から高さ 10 m の所から、質量 2.0 kg のボールを静かに放しました。ボールが地面から高さ 5.0 m の所を通るときの速さを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とし、空気の抵抗は考えません。
答え: 9.9 m/s
なめらかな面をすべる物体でも、力学的エネルギーは保存されます。静かにすべらせたときの下での速さは、すべり始めの高さだけで決まります。
なめらかな(摩擦のない)面の上に小さな物体を置き、静かにすべらせます。物体にはたらく力は、重力と、面からの垂直抗力の2つです。
垂直抗力は、いつも面に垂直な向きにはたらきます。物体は、面に沿って動きます。だから、垂直抗力の向きと、物体が動く向きは垂直です。力の向きと動く向きが垂直なら、物体は力の向きには少しも動かないので、その力がする仕事は 0 です。曲がった面でも、面の各点で、垂直抗力は動く向きと垂直です(下の図)。
緑の矢印が垂直抗力、赤の矢印が重力、点線の矢印が動く向きです。
仕事をする力は、重力だけです。だから、なめらかな面をすべる物体でも、力学的エネルギーは保存されます。
物体を、床から高さ h の所から静かにすべらせ、床(面のいちばん下)まで下りたときの速さを v とします。床を基準面とします。はじめは K = 0、U = mgh です。床では K = 12mv2、U = 0 です。保存の法則から、mgh = 12mv2 です。両辺に m があるので、両辺を m で割ると、gh = 12v2 です。両辺を 2 倍して、v2 = 2gh です。だから、v = √2gh です。
高さ 4.0 m なら、v2 = 2 × 9.8 × 4.0 = 78.4 なので、v = √78.4 ≒ 8.9 m/s です。式に m が残らなかったので、下での速さは物体の質量によりません。
v = √2gh には、面の傾きや形が入っていません。だから、高さ h が同じなら、急な斜面でも、ゆるやかな斜面でも、曲面でも、下での速さは同じです。ただし、下に着くまでの時間は、面の形によって違います。
曲面では、面の傾きが場所によって変わるので、加速度も場所によって変わります。だから、加速度が一定のときの式(等加速度直線運動の式)は使えません。力学的エネルギー保存の法則なら、はじめと後の高さと速さだけで、途中の形を考えずに速さが求められます。
面はなめらか(摩擦がない)で、空気の抵抗は考えません。床を基準面としています。
やってみよう
高さ h を 2.0 m にし、「急な斜面」のボタンを押してから「すべらせる」を押し、下での速さを読んでください。次に「曲面」のボタンを押して、もう一度「すべらせる」を押してください。下での速さは変わりましたか。
どちらも 6.3 m/s で、変わりません。
確認
なめらかな面の上をすべる物体に、垂直抗力は仕事をしますか。
しません。垂直抗力の向きは、物体が動く向きと垂直だからです。
例題
なめらかな曲面の、床から高さ 4.5 m の所に小さな物体を置き、静かにすべらせました。物体が床から高さ 2.0 m の所を通るときの速さを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。
答え: 7.0 m/s
弾性力だけが仕事をするときも、運動エネルギーと弾性力による位置エネルギーの和 12mv2 + 12kx2 は一定に保たれます。
なめらかな水平の床の上で、ばね定数 20 N/m のばねの左の端を壁に固定し、右の端に質量 0.20 kg の台車をつなぎます。ばね定数 k は、伸び 1 m あたりの弾性力の大きさです(k = 20 N/m なら、0.10 m 伸びたときの弾性力は 20 × 0.10 = 2.0 N)。
台車の位置は、ばねが自然の長さのときの位置を 0 とし、記号 x で表します。このページでは、右(ばねが伸びる向き)を正の向きとします。x = +0.10 m は 0.10 m 伸びた位置、x = −0.10 m は 0.10 m 縮んだ位置です。ばねが x だけ伸び縮みしているとき、ばねは弾性力による位置エネルギー 12kx2 をたくわえています。12kx2 は x を 2 乗するので、伸びても縮んでも、同じ長さなら同じ値です。
台車を x = +0.10 m まで引いて、静かに放します。台車にはたらく力は、重力・垂直抗力・弾性力です。重力と垂直抗力は、どちらも動く向き(水平)と垂直なので、仕事をしません。仕事をするのは、弾性力だけです。
床はなめらかです。動きは 1/4 の速さで見せています。
弾性力だけが仕事をするときも、力学的エネルギーは保存されます。
台車が x = +0.10 m、+0.060 m、0 の位置を通るときの、エネルギーと速さは、次の表のようになります。
| 位置 x [m] | +0.10 | +0.060 | 0 |
|---|---|---|---|
| 弾性力による位置エネルギー U [J] | 0.100 | 0.036 | 0 |
| 運動エネルギー K [J] | 0 | 0.064 | 0.100 |
| 力学的エネルギー E [J] | 0.100 | 0.100 | 0.100 |
| 速さ v [m/s] | 0 | 0.80 | 1.0 |
はじめ(x = +0.10 m)は止まっているので、K = 0 です。U = 12 × 20 × 0.102 = 0.100 J です。x = +0.060 m では、U = 12 × 20 × 0.0602 = 0.036 J です。E は 0.100 J のままなので、K = 0.100 − 0.036 = 0.064 J です。12 × 0.20 × v2 = 0.064 から、v2 = 0.64 なので、v = 0.80 m/s です。
台車は x = 0 を通り過ぎると、ばねを縮めながら左へ進み、だんだん遅くなります。K が 0 になるのは、U が 0.100 J に戻る所です。12 × 20 × x2 = 0.100 から x2 = 0.010 なので、x = −0.10 m(0.10 m 縮んだ位置)です。だから、台車は x = +0.10 m と x = −0.10 m の間を往復します。
床はなめらかです。台車を x = +0.10 m まで引いて静かに放し、台車が往復している途中の、ある位置を通るときのようすを表します。
やってみよう
台車の位置 x を +0.08 m から +0.02 m に変えてください。運動エネルギー K と、弾性力による位置エネルギー U は、それぞれ増えましたか、減りましたか。力学的エネルギー E はどうなりましたか。
U は 0.064 J から 0.004 J に減り、K は 0.036 J から 0.096 J に増えました。どちらも 0.060 J 変わり、E は 0.100 J のままです。
確認
往復している台車がいちばん速くなるのは、どの位置ですか。
自然の長さの位置(x = 0)です。U が 0 になり、K がいちばん大きくなるからです。
例題
なめらかな水平の床の上で、ばね定数 90 N/m のばねの左の端を壁に固定しました。右の端に質量 0.40 kg の物体を押し当てて、ばねを 0.20 m 縮め、静かに放しました。ばねは自然の長さに戻ったところで物体から離れます。ばねを離れた後の物体の速さを求めなさい。
答え: 3.0 m/s
力学的エネルギー保存の法則で解くときは、① 仕事をする力を確かめ、② 基準面を決め、③ はじめと後の場面のエネルギーを等号で結びます。
力学的エネルギー保存の法則で問題を解くときは、次の3つの手順で進めます。
① 物体にはたらく力を描き、重力・弾性力のほかに仕事をする力がないことを確かめます。
② 重力による位置エネルギーを使うときは、基準面を決めます。
③ はじめの場面と後の場面を決め、それぞれの K と U を書いて、和を等号で結びます。
① で、重力・弾性力のほかに仕事をする力があれば、力学的エネルギー保存の法則は使えません。
地面から、ボールを真上に速さ v0 で投げ上げたときの、最高点の高さ h を、この手順で考えます。v0 は投げ上げた速さです。① ボールにはたらく力は重力だけです。だから、力学的エネルギーは保存されます。② 地面を基準面とします。
③ はじめの場面は、投げた瞬間です。高さは 0 なので、K = 12mv02、U = 0 です。後の場面は、最高点です。真上に投げたボールは、最高点で一瞬止まります。だから、K = 0、U = mgh です。2つの和を等号で結ぶと、12mv02 + 0 = 0 + mgh です。この式から h を求めます。時刻を使わずに、高さが求められます。
真上に投げ上げたボールです。
確認
地面から真上に投げ上げたボールが、地面に戻ってきたときの速さは、投げたときの速さと比べてどうですか。
同じです。E が変わらず、高さが同じで U も同じなので、K も同じになるからです。
例題
地面から、ボールを真上に 4.2 m/s で投げ上げました。最高点の高さ(地面からの高さ)を、力学的エネルギー保存の法則で求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とし、空気の抵抗は考えません。
答え: 0.90 m
重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とし、空気の抵抗は考えません。面や床は、どれもなめらか(摩擦がない)とします。
問1地面から高さ 3.6 m の所から、ボールを静かに放しました。地面に着く直前の速さを求めなさい。
8.4 m/s
重力だけが仕事をするので、力学的エネルギーは保存される。地面を基準面、ボールの質量を m とする。はじめは K = 0、U = m × 9.8 × 3.6。地面に着く直前は K = 12mv2、U = 0。m × 9.8 × 3.6 = 12mv2 の両辺を m で割り、v2 = 2 × 9.8 × 3.6 = 70.56。8.4 × 8.4 = 70.56 なので、v = 8.4 m/s
問2地面から、ボールを真上に 6.4 m/s で投げ上げました。ボールが地面から高さ 1.5 m の所を通るときの速さを求めなさい。
3.4 m/s
重力だけが仕事をするので、力学的エネルギーは保存される。地面を基準面、ボールの質量を m とする。12m × 6.42 + 0 = 12mv2 + m × 9.8 × 1.5。両辺を m で割り、2 倍すると、6.42 = v2 + 2 × 9.8 × 1.5。v2 = 40.96 − 29.4 = 11.56。3.4 × 3.4 = 11.56 なので、v = 3.4 m/s。保存の式には向きが入らないので、高さ 1.5 m を上がっていくときも、落ちてくるときも、速さは同じ 3.4 m/s
問3なめらかな曲面の、床から高さ 3.0 m の所に、質量 0.50 kg の物体を置いて静かにすべらせました。床まで下りたときの速さを求めなさい。
7.7 m/s
重力と垂直抗力がはたらくが、垂直抗力は動く向きと垂直なので仕事をしない。床を基準面とすると、0.50 × 9.8 × 3.0 = 12 × 0.50 × v2。両辺を 0.50 で割り、v2 = 2 × 9.8 × 3.0 = 58.8。v = √58.8 = 7.66… ≒ 7.7 m/s(2 桁に丸めて)
質量は両辺から消えるので、質量を入れない図でも同じ速さになります。
問4なめらかな床の上を 5.6 m/s ですべってきた物体が、そのまま、床につながる十分に高い、なめらかな曲面を上っていきます。物体は、床から何 m の高さまで上れますか。
1.6 m
仕事をするのは重力だけなので、力学的エネルギーは保存される。床を基準面、物体の質量を m とする。はじめ(床)は K = 12m × 5.62、U = 0。いちばん高い所では、一瞬止まるので K = 0、U = m × 9.8 × h。12m × 5.62 = m × 9.8 × h の両辺を m で割り、15.68 = 9.8 × h。h = 15.68 ÷ 9.8 = 1.6 m
問5なめらかな水平の床の上で、ばね定数 100 N/m のばねの左の端を壁に固定しました。右の端に質量 0.25 kg の物体を押し当てて、ばねを 0.10 m 縮め、静かに放しました。ばねは自然の長さに戻ったところで物体から離れます。ばねを離れた後の物体の速さを求めなさい。
2.0 m/s
仕事をするのは弾性力だけなので、力学的エネルギーは保存される。はじめは K = 0、U = 12 × 100 × 0.102 = 0.50 J。離れるとき(自然の長さ)は U = 0、K = 12 × 0.25 × v2。0.50 = 12 × 0.25 × v2 なので、v2 = 0.50 ÷ 0.125 = 4.0。v = 2.0 m/s
問6なめらかな水平の床の上を、質量 0.50 kg の物体が左へ 2.0 m/s で進み、左の端を壁に固定したばね定数 200 N/m のばねの右の端に当たりました。物体はばねを縮めながら遅くなり、やがて一瞬止まります。このとき、ばねは自然の長さから何 m 縮んでいますか。
0.10 m
仕事をするのは弾性力だけなので、力学的エネルギーは保存される。はじめ(当たる直前)は、ばねは自然の長さで U = 0、K = 12 × 0.50 × 2.02 = 1.0 J。いちばん縮んだときは、物体が一瞬止まるので K = 0、U = 12 × 200 × x2。1.0 = 12 × 200 × x2 なので、x2 = 1.0 ÷ 100 = 0.010。0.10 × 0.10 = 0.010 なので、x = 0.10 m
要点
物理基礎 第3章 仕事とエネルギー