要点
振り子の糸の張力は仕事をしないので、振り子の力学的エネルギーは保存されます。静かに放したときの最下点の速さは v = √2gh です。
糸の上の端を天井に固定し、下の端におもりをつるします。おもりを横へ引いて静かに放すと、おもりは左右に往復します。これを振り子といいます。「静かに放す」は、速さ 0 のまま手を離すことです。動いているおもりにはたらく力は、重力と、糸がおもりを引く力(張力)の2つです。このページでは、空気の抵抗は考えません。
張力は、いつも糸に沿って、おもりから天井の固定点へ向かう向きにはたらきます。おもりは、固定点を中心とする円の上を動きます。おもりが動く向きは円に沿う向きで、いつも糸と垂直です。仕事は、力の大きさ × 力の向きに動いた距離です。力の向きと動く向きが垂直なとき、物体は力の向きに少しも動かないので、その力は仕事をしません。だから、張力は仕事をせず、おもりに仕事をするのは重力だけです。
運動エネルギー K = 12mv2 と位置エネルギー U = mgh の和 E = K + U を、力学的エネルギーといいます(m は質量、v は速さ、h は基準面(高さを 0 とする面)からの高さ)。重力だけが仕事をするとき、E はどの位置でも同じ値です(力学的エネルギー保存の法則)。振り子のいちばん低い点を最下点といいます。このページでは、振り子の位置エネルギーの基準面を最下点の高さにとります。放した点が最下点より h 高いとします。放した点では速さが 0 なので、E = 0 + mgh です。最下点では高さが 0 なので、E = 12mv2 + 0 です。
糸の長さを L、放したときの糸と鉛直線(真下へ向かう線)の間の角を θ(シータ)とします。固定点から真下へ線を引き、放した点から水平に線を引くと、直角三角形ができます。斜辺は糸で、長さは L です。直角三角形では、cos θ(コサイン シータ)= 底辺 ÷ 斜辺 です。底辺は、θ をはさむ2辺のうち斜辺でないほうの辺で、ここでは縦の辺です。だから、縦の辺 ÷ L = cos θ で、縦の辺の長さは L × cos θ = L cos θ です。放した点は固定点より L cos θ だけ下にあります。最下点は、固定点より L だけ下にあります。2つの差が h です。
たとえば、L = 2.0 m、θ = 60° のとき(cos 60° = 0.500)、放した点は固定点より 2.0 × 0.500 = 1.0 m 下にあります。最下点は 2.0 m 下なので、h = 2.0 − 1.0 = 1.0 m です。
放した点と最下点の E が等しいので、12mv2 = mgh です。両辺を m で割って 2 倍すると、v2 = 2gh です。v はこの正の平方根で、v = √2gh(√ はルート)と書きます。
h = 1.0 m なら、v = √2 × 9.8 × 1.0 = √19.6 = 4.42… m/s(約 4.4 m/s)です。
糸の長さは 2.0 m、おもりの質量は 0.50 kg です。位置エネルギーの基準面は最下点です。重力と張力の矢印の長さは、力の大きさを表しません。
やってみよう
放す角 θ を 45° にしてください(今の位置は「左 45°(放した点)」になります)。次に、今の位置を「最下点」まで動かしてください。位置エネルギー U と運動エネルギー K は、それぞれいくつからいくつになりましたか。最下点での速さ v はいくつですか。
U は 2.87 J から 0.00 J に減り、K は 0.00 J から 2.87 J に増えました。力学的エネルギー E の棒の高さは変わりません。最下点での速さは 3.39 m/s です。
確認
空気の抵抗がないとき、振り子のおもりは、放した高さより高い所まで上れますか。
上れません。E が一定なので、K = 0 になって止まるのは、U が放したときと同じ mgh になる高さ(放した点と同じ高さ)です。
例題
長さ 1.6 m の糸におもりをつるした振り子があります。糸が鉛直線と 60° をなす位置から、おもりを静かに放しました。おもりが最下点を通るときの速さを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s²、cos 60° = 0.500 とします。
答え: 約 4.0 m/s
する仕事が道筋によらない力を保存力、保存力でない力を非保存力といいます。
質量 1.0 kg の物体が、高さ 1.0 m だけ下りるとき、重力がする仕事を3つの道で比べます。重力は 1.0 × 9.8 = 9.8 N です。
どの道でも 9.8 J で、重力の仕事は、はじめと後の高さだけで決まります。
重力のように、する仕事が道筋によらず、はじめと後の位置だけで決まる力を保存力といいます。ばねの弾性力も保存力です。弾性力がする仕事は、はじめと後の伸び(縮み)だけで決まります。保存力には、位置だけで決まる位置エネルギー(重力なら mgh、弾性力なら 12kx2。k はばね定数、x はばねの伸び(縮み))を決めることができます。
動摩擦係数 0.50 のあらい床の上で、質量 1.0 kg の箱を、点 A から 2.0 m 離れた点 B まですべらせます。水平な床なので垂直抗力は N = mg = 9.8 N で、床が箱に加える動摩擦力は f′ = μ′N = 0.50 × 9.8 = 4.9 N です(μ′(ミュー ダッシュ)は動摩擦係数)。動摩擦力は、すべる向きと逆向きなので、その仕事は負です。大きさは、動摩擦力 × すべった距離です。A から B へまっすぐ 2.0 m すべらせると、動摩擦力の仕事は −4.9 × 2.0 = −9.8 J です。同じ A から B へ、奥へ 2.0 m、横へ 2.0 m、手前へ 2.0 m と遠回りして 6.0 m すべらせると、動摩擦力の仕事は −4.9 × 6.0 = −29.4 ≒ −29 J です。
箱の質量は 1.0 kg、動摩擦力の大きさはどこでも 4.9 N です。
摩擦力のように、保存力でない力を非保存力といいます。摩擦力のほか、空気の抵抗、手が押す力・引く力も非保存力です。非保存力には、位置エネルギーを決めることができません。上の摩擦力のように、同じ A から B へ動いても、通った道によって仕事が違うからです。糸の張力や垂直抗力も非保存力ですが、動く向きと垂直なときは仕事をしません(項目1 の振り子の張力がその例です)。
確認
あらい床の上で、同じ2点の間を箱をすべらせて動かすとき、動摩擦力がする仕事は、道筋によりますか。
よります。すべる距離が長い道ほど、負の仕事の大きさが大きくなります。
重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。三角比は cos 30° ≒ 0.866、cos 60° = 0.500、sin 30° = 0.500 を使います。
問1長さ 2.0 m の糸に質量 0.50 kg のおもりをつるした振り子があります。糸が鉛直線と 30° をなす位置から、おもりを静かに放しました。おもりが最下点を通るときの速さを求めなさい。
約 2.3 m/s
基準面を最下点にとる。放した点の高さは h = L(1 − cos 30°) = 2.0 × (1 − 0.866) = 0.268 m。張力は仕事をしないので力学的エネルギーは保存され、12mv2 = mgh から v = √2gh = √2 × 9.8 × 0.268 = √5.2528 = 2.29… ≒ 2.3 m/s
(項目1の図で、放す角 θ = 30°、今の位置を「最下点」にします。速さ v = 2.29 m/s です)
問2長さ 0.80 m の糸でつるした振り子のおもりが、最下点を速さ 2.8 m/s で通りました。
(1) おもりは、最下点から何 m の高さまで上がりますか。
(2) いちばん高く上がったとき、糸は鉛直線と何度をなしていますか。
(1) 0.40 m (2) 60°
(1) 基準面を最下点にとる。最下点の E = 12mv2、いちばん高い点では速さが 0 なので E = mgh。12mv2 = mgh から h = v2 ÷ (2g) = 2.82 ÷ (2 × 9.8) = 7.84 ÷ 19.6 = 0.40 m。(2) h = L − L cos θ から、L cos θ = L − h = 0.80 − 0.40 = 0.40 m。cos θ = 0.40 ÷ 0.80 = 0.500 なので θ = 60°
問3地面から高さ 3.0 m の所に、質量 0.40 kg の物体があります。この物体が、次の (a)・(b) の道で地面まで下りるとき、重力がする仕事を、それぞれ求めなさい。
(a) 真下に落ちる
(b) 曲がりくねった、なめらかなすべり台をすべり下りる
(a)・(b) とも 約 12 J
(a) 重力は 0.40 × 9.8 = 3.92 N で、重力の向き(真下)に 3.0 m 動くので、仕事は 3.92 × 3.0 = 11.76 ≒ 12 J。(b) 重力は保存力なので、する仕事は道筋によらず、はじめと後の高さの差だけで決まる。高さの差は (a) と同じ 3.0 m なので、11.76 ≒ 12 J
問4傾き 30° のあらい斜面(動摩擦係数 0.10)があります。質量 3.0 kg の物体が、斜面の下の端から斜面に沿って上向きにすべり出し、2.5 m 上がって止まりました。そのあと物体はすべり下りて、下の端に戻りました。
(1) 物体が 2.5 m 上がる間に、重力がした仕事を求めなさい。
(2) 上がって戻るまでの間に、重力がした仕事の合計を求めなさい。
(3) 上がって戻るまでの間に、動摩擦力がした仕事の合計を求めなさい。
(1) 約 −37 J (2) 0 J (3) 約 −13 J
(1) 上がった高さは 2.5 × sin 30° = 2.5 × 0.500 = 1.25 m。重力は 3.0 × 9.8 = 29.4 N で、高さが 1.25 m 上がるので、重力の仕事は負で −29.4 × 1.25 = −36.75 ≒ −37 J。(2) 下りる間は高さが 1.25 m 下がるので +36.75 J。合計は −36.75 + 36.75 = 0 J(重力は保存力なので、はじめと後の位置が同じなら仕事の合計は 0)。(3) 垂直抗力は、重力の斜面に垂直な分力 mg cos 30° とつり合うので、N = 3.0 × 9.8 × 0.866 = 25.46… N。動摩擦力は f′ = μ′N = 0.10 × 25.46… = 2.546… N で、上がるときも下りるときも、すべる向きと逆向き。すべった距離は 2.5 + 2.5 = 5.0 m なので、仕事は −2.546… × 5.0 = −12.73… ≒ −13 J(はじめと後の位置が同じでも 0 にならない)
要点
物理基礎 第3章 仕事とエネルギー