要点
物体が止まっている間、静止摩擦力は、物体を動かそうとする力と同じ大きさになります。
あらい床の上の重たそうな箱を、あなたが手で水平に押します。弱く押すと、箱は動きません。箱が動かないのは、床が箱に摩擦力を加えているからです。摩擦力は、面に沿って、物体がすべろうとする向きと逆向きにはたらきます。右へ押すと、箱は右へすべろうとするので、摩擦力は左向きです。
止まっている物体にはたらく摩擦力を、静止摩擦力といいます。このページでは、静止摩擦力の大きさを記号 f(エフ)で表します。箱は止まっているので、箱にはたらく力はつり合っています。水平の向きの力は、手が箱を押す力(右向き)と、床が箱に加える静止摩擦力 f(左向き)の2つです。つり合っているので、2つは同じ大きさです。4.0 N で押しているなら、f = 4.0 N です。
押す力を大きくしても、箱が止まっている間は、静止摩擦力も同じだけ大きくなります。静止摩擦力の大きさは、決まった値ではありません。ただし、静止摩擦力の大きさには限りがあります(次の項目)。
箱にはたらく水平の向きの力だけを描いています。この図の箱は、8.0 N まで押しても動きません。
やってみよう
押す力 F を 2.0 N にしてください。次に、F を 6.0 N に変えてください。静止摩擦力の大きさ f は、いくつからいくつになりましたか。
f は 2.0 N から 6.0 N になりました。
確認
水平な床に置いただけで、だれも押していない箱に、静止摩擦力ははたらいていますか。
はたらいていません(0 です)。箱はどちらにもすべろうとしていないからです。
静止摩擦力には上限があり、動き出す直前の静止摩擦力を最大摩擦力といいます。最大摩擦力は f0 = μN です。
押す力をだんだん大きくしていくと、あるところで箱は動き出します。動き出す直前の静止摩擦力が、静止摩擦力のいちばん大きな値です。これを最大摩擦力といい、記号 f0 で表します。「エフ・ゼロ」と読みます。
最大摩擦力は、箱が床から受ける垂直抗力 N に比例します。斜体の N は垂直抗力の大きさで、立体の N は単位のニュートンです。
比例の定数 μ を静止摩擦係数といいます。「ミュー」と読みます。μ は、面と物体の組み合わせ(木と木、ゴムと床など)で決まる数で、単位はありません。
水平な床の上の箱を水平に押すとき、上下の力は重力と垂直抗力だけで、つり合っています。だから N = mg です。たとえば、μ = 0.50 の床の上の 1.0 kg の箱なら、N = 1.0 × 9.8 = 9.8 N、f0 = 0.50 × 9.8 = 4.9 N です。
押す力が f0 より小さいうちは、箱は止まったままです。押す力が f0 を超えると、静止摩擦力では支えきれず、箱は動き出します。
静止摩擦係数は 0.50 です。手が押す力が最大摩擦力 f0 を超えると、箱は動き出します。動き出した後も、すべっている間は摩擦力がはたらきます(大きさは次の項目)。動き出した後の摩擦力(動摩擦力)の矢印の長さは、大きさを表しません。
やってみよう
箱の質量 m を 2.0 kg にし、押す力 F を 8.0 N にしてください。次に、F を 10.0 N に変えてください。箱はどうなりましたか。そのときの最大摩擦力 f0 はいくつですか。
8.0 N では止まったまま、10.0 N で動き出しました。最大摩擦力は f0 = 9.8 N です。
確認
同じ箱の上におもりをのせて、垂直抗力 N を2倍にすると、最大摩擦力は何倍になりますか。
2倍になります。f0 = μN で、最大摩擦力は N に比例するからです。
例題
静止摩擦係数 0.40 の水平な床の上に、質量 3.0 kg の箱が止まっています。箱を水平に押して動かし始めるには、押す力の大きさを何 N より大きくすればよいですか。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。
答え: 最大摩擦力は約 12 N。押す力がこれを超えると動き出す
すべっている物体には、動摩擦力 f′ = μ′N がはたらきます。動摩擦力はすべる速さによらず一定で、ふつうは最大摩擦力より小さくなります。
箱が動き出した後も、床の上をすべっている間は、床が箱に摩擦力を加えます。向きは、すべる向きと逆向きです。すべっている物体にはたらく摩擦力を、動摩擦力といいます。記号 f′ で表し、「エフ・ダッシュ」と読みます。
動摩擦力も、垂直抗力 N に比例します。
比例の定数 μ′ を動摩擦係数といいます。「ミュー・ダッシュ」と読みます。μ と同じく、面と物体の組み合わせで決まり、単位はありません。ふつうの面では、μ′ は μ より小さくなります(μ′ < μ)。だから、動き出すと摩擦力は小さくなります。重い家具を押すとき、動き出すと少し楽になるのはこのためです。
藍が手が押す力、黄土が床がたんすに加える摩擦力です。2つのコマは同じ縮尺です。
質量 1.0 kg の箱を、静止摩擦係数 μ = 0.50、動摩擦係数 μ′ = 0.30 の床の上で押します。N = 9.8 N なので、f0 = 0.50 × 9.8 = 4.9 N、f′ = 0.30 × 9.8 = 2.94 N です。押す力を変えて、摩擦力の大きさを表にします(動摩擦力は 0.1 N の桁に丸めて 2.9 N)。
| 押す力 F [N] | 0 | 1.0 | 2.0 | 3.0 | 4.0 | 5.0 | 6.0 | 7.0 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 摩擦力の大きさ [N] | 0 | 1.0 | 2.0 | 3.0 | 4.0 | 2.9 | 2.9 | 2.9 |
| 箱の様子 | 止まっている | 止まっている | 止まっている | 止まっている | 止まっている | すべっている | すべっている | すべっている |
4.0 N までは f0 = 4.9 N より小さいので止まっていて、摩擦力は押す力と同じ静止摩擦力です。5.0 N 以上では f0 を超えるので、箱はすべり、摩擦力は動摩擦力 2.9 N です。
横軸に押す力 F、縦軸に摩擦力の大きさをとったグラフに、表の組を点で打ちます。たとえば点 (3.0 N, 3.0 N) は、「3.0 N で押したとき、箱は止まっていて、静止摩擦力の大きさは 3.0 N」という意味です。点 (6.0 N, 2.9 N) は、「6.0 N で押したとき、箱はすべっていて、動摩擦力の大きさは 2.9 N」という意味です。
止まっている間の点は、原点を通る右上がりの直線(摩擦力 = 押す力)に乗ります。この直線は、最大摩擦力 f0 の所で終わります。すべっている間の点は、高さ f′ の水平な線に乗ります。押す力を大きくしても、動摩擦力は変わりません。
静止摩擦係数は 0.50、動摩擦係数は 0.30 です。
やってみよう
箱の質量の「2.0 kg」のボタンを押し、押す力 F を 8.0 N にしてください。次に、F を 12.0 N に変えてください。摩擦力の大きさは、いくつからいくつになりましたか。箱の様子はどう変わりましたか。
摩擦力は 8.0 N から 5.9 N になりました。箱は「止まっている」から「すべっている」に変わりました。
確認
すべっている箱の速さが2倍になると、動摩擦力は何倍になりますか。
変わりません(1倍)。f′ = μ′N に速さが入っていないからです。
あらい床の上を動く物体の運動方程式には、動く向きと逆向きに、動摩擦力 μ′mg を入れます。
あらい床の上を動く物体の運動方程式 ma = F(m は質量、a は加速度、F は物体にはたらく力の合力)は、次の ①〜④ の手順で立てます。
水平な床なら N = mg なので、動摩擦力は f′ = μ′mg です。
あらい床の上で、箱を右へすべらせて、手を離します。手を離した後の箱にはたらく水平の力は、床が箱に加える動摩擦力 μ′mg(左向き)だけです。動く向き(右)を正にすると、運動方程式は ma = −μ′mg です。両辺を m で割って、a = −μ′g です。
a が負なので、箱はだんだん遅くなって止まります。止まった後は、もう動摩擦力ははたらきません。
動摩擦係数 μ′ = 0.30 の床で、箱を 3.0 m/s ですべらせます。a = −0.30 × 9.8 = −2.94 m/s² です。止まるまでの距離は、等加速度直線運動の式 v2 − v02 = 2ax(v0 は初めの速度、v は後の速度、x はその間の変位)で求めます。止まるので v = 0 です。02 − 3.02 = 2 × (−2.94) × x から、x = 9.0 ÷ 5.88 = 1.53… ≒ 1.5 m です。
箱を、あらい床の上で水平に力 F で引き続けると、引く向きを正として、ma = F − μ′mg です。引く力が動摩擦力より大きければ、a は正で、箱は引く向きに速くなります。
動摩擦力の矢印の長さは大きさを表しません。
やってみよう
動摩擦係数 μ′ を 0.20 にし、初速度 v0 を 2.0 m/s にして「すべらせる」を押してください。止まるまでの距離 x を読んでください。次に、v0 を 4.0 m/s に変えて、もう一度すべらせてください。x は何倍になりましたか。
x は 1.02 m から 4.08 m になり、4倍になりました。
確認
動摩擦係数が同じなら、質量の大きい箱ほど、早く止まりますか。
いいえ。すべって止まる箱の加速度は a = −μ′g で、質量によらないからです。
例題
動摩擦係数 0.50 のあらい水平な床の上で、質量 2.0 kg の箱を、水平に 14.8 N の力で引き続けます。箱はすべっています。箱の加速度の大きさを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。
答え: 2.5 m/s²(引く向き)
重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。床はどれも水平です。
問1静止摩擦係数 0.50 のあらい床の上に、質量 3.0 kg の箱があります。あなたが箱を水平に 12 N の力で押しました。箱は動きますか。動かないなら、静止摩擦力の大きさを求めなさい。
動かない。静止摩擦力の大きさは 12 N
N = mg = 3.0 × 9.8 = 29.4 N。最大摩擦力は f0 = μN = 0.50 × 29.4 = 14.7 N。押す力 12 N は f0 より小さいので、箱は止まったまま。止まっているので力はつり合い、静止摩擦力は押す力と同じ 12 N
問2あらい床の上の、質量 5.0 kg の箱を水平に押します。押す力をだんだん大きくしていくと、押す力が 19.6 N を超えたところで、箱が動き出しました。この床と箱の静止摩擦係数を求めなさい。
0.40
動き出す直前の押す力は、最大摩擦力と同じ大きさなので f0 = 19.6 N。N = mg = 5.0 × 9.8 = 49 N。f0 = μN から μ = 19.6 ÷ 49 = 0.40
問3動摩擦係数 0.20 のあらい床の上で、質量 3.0 kg の箱を水平に 9.0 N の力で引き続けます。箱はすべっています。箱の加速度の大きさを求めなさい。
約 1.0 m/s²
引く向きを正とする。N = mg = 3.0 × 9.8 = 29.4 N、動摩擦力は f′ = μ′N = 0.20 × 29.4 = 5.88 N。運動方程式は 3.0 × a = 9.0 − 5.88 = 3.12。a = 1.04 ≒ 1.0 m/s²
問4動摩擦係数 0.25 のあらい床の上で、質量 4.0 kg の箱を、水平に一定の速さで引き続けます。引く力の大きさを求めなさい。
9.8 N
一定の速さでまっすぐ動いているので、加速度は 0 で、箱にはたらく力の合力は 0(慣性の法則)。水平の力は、引く力 F と動摩擦力 f′ の2つなので、F = f′。N = mg = 4.0 × 9.8 = 39.2 N、f′ = 0.25 × 39.2 = 9.8 N。だから F = 9.8 N
このパターンでは、等加速度直線運動の式 v2 − v02 = 2ax を使います。v0 は初めの速度、v は後の速度、x はその間の変位です。
問5動摩擦係数 0.40 のあらい床の上で、箱を 4.0 m/s ですべらせて手を離しました。箱が止まるまでにすべる距離を求めなさい。
約 2.0 m
すべる向きを正とする。a = −μ′g = −0.40 × 9.8 = −3.92 m/s²。止まるので v = 0。02 − 4.02 = 2 × (−3.92) × x。x = 16 ÷ 7.84 = 2.04… ≒ 2.0 m
(「すべらせる」を押してください)
問6あらい床の上で、箱を 2.8 m/s ですべらせて手を離したところ、2.0 m すべって止まりました。この床と箱の動摩擦係数を求めなさい。
0.20
すべる向きを正とし、加速度を a とする。02 − 2.82 = 2 × a × 2.0 から、a = −7.84 ÷ 4.0 = −1.96 m/s²。a = −μ′g なので、μ′ = 1.96 ÷ 9.8 = 0.20
要点
物理基礎 第2章 力と運動の法則