公式
あらい斜面の上の物体は、重力の斜面に沿った分力 mg sin θ が最大摩擦力 μmg cos θ を超えると、すべり出します。
水平な床から角 θ(シータ)だけ傾いた、あらい斜面の上に箱を置きます。θ は、斜面の傾きの角です。箱にはたらく力は、地球が箱を引く力(重力 mg)、斜面が箱を押す力(垂直抗力 N)、斜面が箱に加える静止摩擦力 f の3つです。箱は、重力のために斜面に沿って下へすべろうとします。摩擦力はすべろうとする向きと逆向きなので、静止摩擦力は斜面に沿って上向きです。
重力 mg を、斜面に沿った分力 mg sin θ(斜面に沿って下向き)と、斜面に垂直な分力 mg cos θ(斜面に向かう向き)に分けます。箱を斜面に沿って動かそうとする力は、mg sin θ です。止まっている間は、斜面に沿った向きの力がつり合うので、静止摩擦力は動かそうとする力と同じ大きさです。だから、f = mg sin θ です。
斜面に垂直な向きの力は、垂直抗力 N と、重力の分力 mg cos θ です。箱はこの向きに動かないので、2つはつり合っていて、N = mg cos θ です。
静止摩擦力がなれるいちばん大きな値を、最大摩擦力といいます。最大摩擦力は f0 = μN です(f0 は「エフ・ゼロ」、μ は「ミュー」と読みます)。N = mg cos θ を入れると、次の式になります。
斜面の傾きを大きくすると、sin θ は大きくなり、cos θ は小さくなります。だから、動かそうとする力 mg sin θ は大きくなり、最大摩擦力 μmg cos θ は小さくなります。mg sin θ が μmg cos θ 以下なら、静止摩擦力で支えられるので、箱は止まったままです。mg sin θ が μmg cos θ を超えると、静止摩擦力では支えきれず、箱はすべり出します。
質量 2.0 kg の箱を、静止摩擦係数 μ = 0.50 のあらい斜面に置きます。重力は mg = 2.0 × 9.8 = 19.6 N です。
傾き 10° のとき(sin 10° ≒ 0.174、cos 10° ≒ 0.985)、mg sin 10° ≒ 19.6 × 0.174 = 3.41… ≒ 3.4 N(2 桁に丸めて)、μmg cos 10° ≒ 0.50 × 19.6 × 0.985 = 9.65… ≒ 9.7 N です。3.4 N は 9.7 N より小さいので、箱は止まったままで、静止摩擦力は 3.4 N です。
傾き 40° のとき(sin 40° ≒ 0.643、cos 40° ≒ 0.766)、mg sin 40° ≒ 19.6 × 0.643 = 12.60… ≒ 13 N、μmg cos 40° ≒ 0.50 × 19.6 × 0.766 = 7.50… ≒ 7.5 N です。13 N は 7.5 N より大きいので、箱はすべり出します。
箱の質量は 2.0 kg です。赤の実線が重力、赤の破線がその2つの分力です。すべり出した後の摩擦力(動摩擦力)の矢印の長さは、大きさを表しません。
やってみよう
静止摩擦係数の「0.50」のボタンを押し、傾き θ を 20° にしてください。次に、θ を 30° に変えてください。斜面に沿った分力 mg sin θ と最大摩擦力 μmg cos θ は、それぞれいくつからいくつになりましたか。箱の様子はどう変わりましたか。
mg sin θ は 6.7 N から 9.8 N に、μmg cos θ は 9.2 N から 8.5 N になりました。20° では mg sin θ のほうが小さいので「止まったまま」、30° では大きいので「すべり出す」に変わりました。
確認
あらい斜面の上で箱が止まっているとき、斜面が箱に加える2つの力(垂直抗力と静止摩擦力)の合力は、どちら向きですか。
鉛直上向きです。箱は止まっていて、残りの重力(鉛直下向き)とつり合うからです。
例題
傾き 30° のあらい斜面の上で、質量 3.0 kg の箱が止まっています。斜面が箱に加える静止摩擦力の大きさと、斜面が箱を押す力(垂直抗力)の大きさを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とし、sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866 とします。
答え: 静止摩擦力 約 15 N、垂直抗力 約 25 N
あらい斜面をすべる物体には、すべる向きと逆向きに動摩擦力 μ′mg cos θ がはたらきます。運動方程式に、この力を入れて加速度を求めます。
箱が斜面をすべっている間は、斜面が箱に動摩擦力を加えます。動摩擦力は f′ = μ′N です(f′ は「エフ・ダッシュ」、μ′ は「ミュー・ダッシュ」と読みます。μ′ は動摩擦係数です)。斜面では N = mg cos θ なので、f′ = μ′mg cos θ です。動摩擦力の向きは、すべる向きと逆向きです。すべり下りるときは斜面に沿って上向き、すべり上がるときは斜面に沿って下向きです。
運動方程式 ma = F(m は質量、a は加速度、F は物体にはたらく力の合力)は、次の ①〜④ の手順で立てます。
両辺を m で割ると、次の式になります。
この式は覚えなくてもかまいません。運動方程式を立てて m で割れば、いつでも出せます。
傾き 30°、動摩擦係数 μ′ = 0.10 のあらい斜面を、箱がすべり下ります。a = 9.8 × (0.500 − 0.10 × 0.866) = 9.8 × 0.4134 = 4.05… ≒ 4.1 m/s² です。摩擦のないなめらかな斜面なら、μ′ = 0 として a = 9.8 × 0.500 = 4.9 m/s² です。動摩擦力が斜面に沿って上向きにはたらく分だけ、加速度は小さくなります。
次に、斜面の下から箱を斜面に沿って上向きに押し出し、手を離します。箱はすべり上がっていきます。すべり上がっている間、斜面に沿った向きの力は、重力の分力 mg sin θ と動摩擦力 μ′mg cos θ で、どちらも斜面に沿って下向きです。動く向き(斜面に沿って上向き)を正にすると、ma = −mg sin θ − μ′mg cos θ です。両辺を m で割ると、次の式になります。
傾き 30°、μ′ = 0.10 の斜面なら、a = −9.8 × (0.500 + 0.10 × 0.866) = −9.8 × 0.5866 = −5.748… ≒ −5.7 m/s² です。a が負なので、箱はだんだん遅くなります。同じ速さで押し出したとき、なめらかな斜面(a = −4.9 m/s²)より加速度の大きさが大きいので、早く止まります。止まった後にすべり下りるかどうかは、項目1 と同じく、mg sin θ と μmg cos θ を比べて決まります。
傾きは 30°、箱の質量は 2.0 kg です。重力は、2つの分力(赤の破線)に分けて描いています。
やってみよう
動摩擦係数 μ′ を 0.20 にし、「すべり下りる」のボタンを押してください。次に、「すべり上がる」のボタンを押してください。動摩擦力の矢印の向きと、加速度の大きさは、どう変わりましたか。
動摩擦力の矢印は、斜面に沿って上向きから下向きに変わりました。加速度の大きさは 3.2 m/s² から 6.6 m/s² になりました(向きはどちらも斜面に沿って下向き)。
確認
すべり下りる箱で、斜面の μ′ だけをだんだん大きくしていくと、加速度が 0 になることはありますか。
あります。sin θ = μ′cos θ になると a = 0 で、箱は同じ速さのまますべり下ります。
例題
傾き 30°、動摩擦係数 0.30 のあらい斜面を、質量 2.0 kg の箱がすべり下りています。箱の加速度の大きさを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とし、sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866 とします。
答え: 約 2.4 m/s²(斜面に沿って下向き)
下の物体 A を引くとき、上の物体 B を動かすのは A から受ける摩擦力だけです。一緒に動くのに必要な摩擦力が B の最大摩擦力を超えると、B は A の上をすべります。
なめらかな水平な床の上に、板 A を置き、その上に箱 B をのせます。A と B の間は、あらい面です。A の右側にひもを付け、あなたがそのひもを水平に右へ力 F で引きます。B には、何も付けません。A の質量を mA(エム・エー)、B の質量を mB(エム・ビー)と書きます。小さい A・B は、どちらの物体かを表す名前です。
B にはたらく水平の力は、A が B に加える摩擦力だけです。A が右へ引かれると、B は A の上で取り残されて、A に対して左へすべろうとします。摩擦力はすべろうとする向きと逆向きなので、B が A から受ける摩擦力は右向き(動く向きと同じ向き)です。作用・反作用で、A は B から、同じ大きさで左向きの摩擦力を受けます。
A と B が一緒に動くとき、加速度は同じ a です。このとき B が受ける摩擦力は静止摩擦力で、その大きさを f とします。A と B をまとめて1つの物体と見ると、水平の力は F だけです(A と B の間の摩擦力は、まとめると打ち消し合います)。だから、(mA + mB)a = F です。B だけの運動方程式は、mBa = f です。a が分かれば、この式から f が求まります。
mA = 2.0 kg、mB = 1.0 kg、A と B の間の静止摩擦係数 μ = 0.40、動摩擦係数 μ′ = 0.30 とします。F = 6.0 N で引くとき、(2.0 + 1.0) × a = 6.0 から、a = 2.0 m/s² です。B の式から、f = 1.0 × 2.0 = 2.0 N です。B は上下には動かないので、B が A から受ける垂直抗力は mBg = 1.0 × 9.8 = 9.8 N です。B の最大摩擦力は、μmBg = 0.40 × 9.8 = 3.92 N です。f = 2.0 N はこれより小さいので、確かに一緒に動けます。
引く力を大きくすると、一緒に動くのに必要な f も大きくなります。f が B の最大摩擦力 μmBg を超えると、B は A の上をすべり始めます。
F = 16 N で引くとします。一緒に動くと考えると、a = 16 ÷ 3.0 = 5.33… m/s²、f = 1.0 × 5.33… = 5.33… N です。これは 3.92 N を超えるので、一緒には動けません。B は A の上をすべります。
すべっている間、B が受ける摩擦力は動摩擦力で、大きさは μ′mBg = 0.30 × 1.0 × 9.8 = 2.94 N で、向きは右向きです。A は、作用・反作用で 2.94 N の摩擦力を左向きに受けます。A と B の加速度は違うので、別々に aA・aB と書き、物体ごとに運動方程式を立てます(右を正)。
A の加速度のほうが大きいので、B は A に対して後ろへずれていきます。
A と B にはたらく水平の力だけを描いています。
やってみよう
引く力 F を 10 N にしてください。次に、F を 12 N に変えてください。様子と、A の加速度は、それぞれどうなりましたか。B が受ける摩擦力の大きさは、いくつからいくつになりましたか。
様子は「一緒に動く」から「B がすべる」に変わりました。A の加速度は 3.33 m/s² から 4.53 m/s² になりました。B が受ける摩擦力は 3.33 N から 2.94 N になり、引く力を大きくしたのに小さくなりました(F = 10 N の静止摩擦力 3.33 N より、すべった後の動摩擦力 2.94 N のほうが小さいためです)。
確認
A を引いて A と B が一緒に動いているとき、B が受ける静止摩擦力の向きは、動く向きと同じですか、逆ですか。
同じです。B を動く向きに加速させている水平の力は、この摩擦力だけだからです。
例題
なめらかな水平な床の上に質量 4.0 kg の板を置き、その上に質量 2.0 kg の箱をのせました。板に付けたひもを水平に 9.0 N で引くと、箱は板の上をすべらずに、板と一緒に動きました。加速度の大きさと、箱が板から受ける摩擦力の大きさを求めなさい。
答え: 加速度 1.5 m/s²、摩擦力 3.0 N(引く向き)
重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。三角比は、sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866、sin 45° = cos 45° ≒ 0.707 を使います。等加速度直線運動の式は、v = v0 + at、x = v0t + ½at2、v2 − v02 = 2ax を使います(v0 は初めの速度、v は t 秒後の速度、x はその間の変位)。
問1傾き 30°、静止摩擦係数 0.70 のあらい斜面の上で、質量 2.0 kg の箱が止まっています。斜面が箱に加える静止摩擦力の大きさと、垂直抗力の大きさを求めなさい。
静止摩擦力 9.8 N、垂直抗力 約 17 N
重力は mg = 2.0 × 9.8 = 19.6 N。箱は止まっているので、静止摩擦力は動かそうとする力 mg sin 30° と同じ大きさで、f = 19.6 × 0.500 = 9.8 N。斜面に垂直な向きはつり合っているので、N = mg cos 30° ≒ 19.6 × 0.866 = 16.97… ≒ 17 N
問2傾き 45° のあらい斜面の上に、質量 2.0 kg の箱を静かに置きました。箱と斜面の間の静止摩擦係数は 0.80 です。箱は止まったままですか、すべり出しますか。
すべり出す
重力は mg = 2.0 × 9.8 = 19.6 N。斜面に沿った分力は mg sin 45° ≒ 19.6 × 0.707 = 13.85… ≒ 14 N。最大摩擦力は μmg cos 45° ≒ 0.80 × 19.6 × 0.707 = 11.08… ≒ 11 N。mg sin 45° が最大摩擦力を超えるので、箱はすべり出す。(45° では sin と cos が等しいので、静止摩擦係数が 1 より小さければ、すべり出します)
問3傾き 30°、動摩擦係数 0.40 のあらい斜面の上で、止まっていた箱から静かに手を離すと、箱はすべり下りはじめました。箱の加速度の大きさと、斜面に沿って 3.0 m すべり下りたときの速さを求めなさい。
加速度 約 1.5 m/s²、速さ 約 3.0 m/s
斜面に沿って下向きを正とする。運動方程式 ma = mg sin 30° − μ′mg cos 30° を m で割って、a = 9.8 × (0.500 − 0.40 × 0.866) = 9.8 × 0.1536 = 1.505… ≒ 1.5 m/s²。止まっていたので v0 = 0。v2 − v02 = 2ax から、v2 = 2 × 1.505… × 3.0 = 9.03…、v = 3.00… ≒ 3.0 m/s
問4傾き 30°、動摩擦係数 0.30 のあらい斜面の下の端から、箱を斜面に沿って上向きに 6.0 m/s で押し出しました。箱が止まるまでに、斜面に沿って何 m 上りますか。
約 2.4 m
斜面に沿って上向きを正とする。すべり上がっている間、重力の分力 mg sin 30° と動摩擦力 μ′mg cos 30° はどちらも下向き。運動方程式 ma = −mg sin 30° − μ′mg cos 30° を m で割って、a = −9.8 × (0.500 + 0.30 × 0.866) = −9.8 × 0.7598 = −7.446… m/s²。止まるので v = 0。02 − 6.02 = 2 × (−7.446…) × x。x = 36 ÷ 14.89… = 2.41… ≒ 2.4 m
このパターンでは、床はどれもなめらかで、板に付けたひもを水平に引きます。
問5質量 5.0 kg の板の上に、質量 3.0 kg の箱をのせ、板を水平に 16 N で引くと、板と箱は一緒に動きました。加速度の大きさと、箱が板から受ける摩擦力の大きさを求めなさい。
加速度 2.0 m/s²、摩擦力 6.0 N
引く向きを正とする。板と箱をまとめて、(5.0 + 3.0) × a = 16、a = 2.0 m/s²。箱を動かす水平の力は板から受ける摩擦力 f だけなので、3.0 × a = f、f = 3.0 × 2.0 = 6.0 N
問6質量 2.0 kg の板の上に、質量 2.0 kg の箱をのせました。板と箱の間の静止摩擦係数は 0.25 です。箱が板の上をすべらずに、板と一緒に動けるのは、板を引く力が何 N までのときですか。
9.8 N
箱は上下には動かないので、箱が板から受ける垂直抗力は 2.0 × 9.8 = 19.6 N。箱を動かすのは板から受ける静止摩擦力だけで、その大きさは最大摩擦力 0.25 × 19.6 = 4.9 N までにしかなれない。だから、箱の加速度は、2.0 × a = 4.9 から、a = 2.45 m/s² までにしかなれない。一緒に動くとき、板と箱をまとめて (2.0 + 2.0) × a = F なので、F = 4.0 × 2.45 = 9.8 N まで
公式
物理基礎 第2章 力と運動の法則