公式
斜面の上の物体にはたらく重力 mg は、斜面に沿った分力 mg sin θ と、斜面に垂直な分力 mg cos θ に分けて考えます。
水平な床から角 θ(シータ)だけ傾いた、なめらかな斜面の上に箱を置きます。θ を斜面の傾きの角といいます。箱にはたらく力は、地球が箱を引く力(重力。鉛直下向きに mg)と、斜面が箱を押す力(垂直抗力。斜面に垂直な向き)の2つです。なめらかな斜面なので、摩擦力はありません。
箱は、斜面に沿って動きます。だから、力を「斜面に沿った向き」と「斜面に垂直な向き」に分けると考えやすくなります。力を分けるときによく使う水平と鉛直の2本の軸を、ここでは斜面に合わせて傾けます。垂直抗力は、はじめから斜面に垂直なので、分けなくてよい力です。分けるのは重力だけです。
重力を分けるには、重力の矢印と「斜面に垂直な線」の間の角が要ります。この角は、斜面の傾きの角と同じ θ です。下の静止図で、1段ずつ確かめます。
どの段も同じ斜面です。重力の矢印(真下)と斜面に垂直な線の間の角は、斜面の傾きの角 θ と同じです。
重力 mg の矢印を斜辺とし、斜面に沿った辺と斜面に垂直な辺をもつ直角三角形を考えます。斜辺と「斜面に垂直な辺」の間の角が θ です。直角三角形の辺の比で、cos θ =(θ をはさむ辺)÷ 斜辺、sin θ =(θ の向かい側の辺)÷ 斜辺 です。だから、θ をはさむ辺は斜辺 × cos θ、向かい側の辺は斜辺 × sin θ です。θ をはさむ辺は斜面に垂直な分力なので、その大きさは mg cos θ です。θ の向かい側の辺は斜面に沿った分力なので、その大きさは mg sin θ です。
質量 1.0 kg の箱が、傾き 30° の斜面の上にあるとします。重力は mg = 1.0 × 9.8 = 9.8 N です。三角比の値は、sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866 です。斜面に沿った分力は、9.8 × sin 30° = 9.8 × 0.500 = 4.9 N です。斜面に垂直な分力は、9.8 × cos 30° ≒ 9.8 × 0.866 = 8.48… ≒ 8.5 N です(2 桁に丸めて)。
箱は、斜面に垂直な向きには動きません(斜面から浮き上がらず、斜面にめり込みもしません)。だから、斜面に垂直な向きの力はつり合っています。斜面に垂直な向きの力は、垂直抗力 N(斜面から離れる向き)と、重力の斜面に垂直な分力 mg cos θ(斜面に向かう向き)です。2つは同じ大きさなので、N = mg cos θ です。
傾き 30° の斜面の上の 1.0 kg の箱なら、N ≒ 8.5 N です。重力 9.8 N より小さくなります。
赤の実線が重力、赤の破線がその2つの分力、緑が垂直抗力です。矢印は、床の線より下に出ることがあります。
やってみよう
質量の「2.0 kg」のボタンを押し、傾き θ を 30° にしてください。次に、θ を 60° に変えてください。斜面に沿った分力と斜面に垂直な分力は、それぞれいくつからいくつになりましたか。
斜面に沿った分力は 9.8 N から 17.0 N に、斜面に垂直な分力は 17.0 N から 9.8 N になりました。
確認
斜面の傾きを大きくしていくと、垂直抗力は大きくなりますか、小さくなりますか。
小さくなります。N = mg cos θ で、cos θ は θ が大きいほど小さいからです。
例題
質量 3.0 kg の箱が、傾き 45° のなめらかな斜面の上にあります。重力の斜面に沿った分力の大きさと、斜面が箱を押す力(垂直抗力)の大きさを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。
答え: 斜面に沿った分力 約 21 N、垂直抗力 約 21 N
なめらかな斜面をすべり下りる物体の加速度は a = g sin θ で、物体の質量によりません。
なめらかな斜面の上で、箱から静かに手を離します。箱は斜面に沿ってすべり下ります。斜面に垂直な向きの力はつり合っているので、箱を動かすのは斜面に沿った向きの力です。斜面に沿った向きにはたらく力は、重力の斜面に沿った分力 mg sin θ(斜面に沿って下向き)だけです。垂直抗力は斜面に垂直なので、斜面に沿った成分をもちません。
運動方程式 ma = F(m は質量、a は加速度、F は物体にはたらく力の合力)を立てます。手順は、① 物体を1つ決める、② はたらく力をすべて描く、③ 正の向きを決める、④ ma =(正の向きの力の合計)−(負の向きの力の合計)を書く、の4つです。
両辺を m で割ると、次の式になります。
式に m が入っていないので、加速度は物体の質量によりません。
傾き 30° の斜面なら、a = 9.8 × sin 30° = 9.8 × 0.500 = 4.9 m/s² です。加速度が一定なので、箱の運動は等加速度直線運動です。斜面に沿って下向きに x 軸をとり、等加速度直線運動の式で、時間や速さを求められます。止まっていた箱なら(初めの速度 v0 = 0)、使う式は次の2つです。
箱は「出発」の線から、斜面に沿って 2.0 m すべります。
やってみよう
傾き θ を 45° にし、質量の「1.0 kg」のボタンを押して、「放す」を押してください。加速度 a と、2.0 m すべるのにかかった時間 t を読んでください。次に、質量の「3.0 kg」のボタンを押して、もう一度放してください。a と t は変わりましたか。
1.0 kg でも 3.0 kg でも、a = 6.9 m/s²、t = 0.76 s で、変わりませんでした。
確認
斜面の傾きを 90°(鉛直)にすると、加速度はいくつになりますか。
9.8 m/s² です。a = g sin 90° = g × 1 = g で、自由落下と同じになるからです。
例題
傾き 30° のなめらかな斜面の上で、止まっていた箱から静かに手を離しました。箱が斜面に沿って 2.0 m すべり下りたときの速さを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。
答え: 約 4.4 m/s
斜面に沿って上向きを正にすると、引き上げる箱の運動方程式は ma = T − mg sin θ、糸のない箱では ma = −mg sin θ です。
傾き 30° のなめらかな斜面の上の、質量 1.0 kg の箱に糸を付けます。あなたが糸を斜面に沿って上へ引きます。箱にはたらく力は、重力、垂直抗力、糸が箱を引く力(張力 T。斜面に沿って上向き)の3つです。斜面に沿った向きの力は、張力 T(上向き)と、重力の斜面に沿った分力 mg sin θ(下向き)の2つです。
重力の斜面に沿った分力は、mg sin 30° = 1.0 × 9.8 × 0.500 = 4.9 N です。張力が T = 5.9 N のとき、1.0 × a = 5.9 − 4.9 から、a = 1.0 m/s² です。正の数なので、加速度は斜面に沿って上向きです。張力が mg sin θ = 4.9 N より小さいと、a は負の数になり、加速度は斜面に沿って下向きです。
斜面の下から、箱を斜面に沿って上向きに押し出します。手を離れた後の箱には糸も手もなく、斜面に沿った力は、重力の分力 mg sin θ(下向き)だけです。斜面に沿って上向きを正にすると、ma = −mg sin θ から、a = −g sin θ です。箱は斜面を上りながらだんだん遅くなり、いったん止まった後、斜面をすべり下ります。等加速度直線運動で、物体が折り返す運動と同じ形です。
傾き 30° の斜面で、箱を +2.0 m/s で押し出すとします。a = −9.8 × 0.500 = −4.9 m/s² なので、速度は 0.1 秒ごとに 0.49 m/s ずつ減ります。0.1 s 後に約 +1.5 m/s、0.2 s 後に約 +1.0 m/s と減っていき、0.4 s を少し過ぎた所で 0 になって、箱はいったん止まります。その後も加速度は −4.9 m/s² のままなので、速度は負になり、箱はすべり下ります。
時刻は実際の時刻です(1/4 の速さで動きます)。
箱にはたらく力のうち、斜面に沿った向きの力だけを描いています。斜面に沿って上向きを正にしています。動く向きは決めていません。
やってみよう
糸の張力 T を 3.9 N にしてください。次に、T を 6.9 N に変えてください。加速度の向きと大きさは、どう変わりましたか。
加速度は、斜面に沿って下向きに 1.0 m/s²(−1.0 m/s²)から、斜面に沿って上向きに 2.0 m/s²(+2.0 m/s²)になりました。
確認
同じ斜面で、質量が2倍の箱を、同じ加速度で引き上げます。糸の張力 T は、何倍にすればよいですか。
2倍です。ma = T − mg sin θ で、ma と mg sin θ がどちらも2倍になるからです。
例題
傾き 30° のなめらかな斜面の下の端から、箱を斜面に沿って上向きに 7.0 m/s で押し出しました。箱が止まるまでに、斜面に沿って何 m 上りますか。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。
答え: 5.0 m
重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。斜面はどれもなめらかな斜面です。三角比は、sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866、sin 45° = cos 45° ≒ 0.707、sin 60° ≒ 0.866、cos 60° = 0.500 を使います。等加速度直線運動の式は、v = v0 + at、x = v0t + ½at2、v2 − v02 = 2ax を使います(v0 は初めの速度、v は t 秒後の速度、x はその間の変位)。
問1質量 3.0 kg の箱が、傾き 60° の斜面の上にあります。重力の、斜面に沿った分力と斜面に垂直な分力の大きさを、それぞれ求めなさい。
斜面に沿った分力 約 25 N、斜面に垂直な分力 約 15 N
重力は mg = 3.0 × 9.8 = 29.4 N。斜面に沿った分力は mg sin 60° ≒ 29.4 × 0.866 = 25.46… ≒ 25 N。斜面に垂直な分力は mg cos 60° = 29.4 × 0.500 = 14.7 ≒ 15 N
問2傾き 30° の斜面の上の、質量 2.0 kg の箱を、あなたが手で斜面に垂直に 3.0 N の力で押し付けています。箱は斜面に沿ってすべり下りますが、斜面からは離れません。斜面が箱を押す力(垂直抗力)の大きさを求めなさい。
約 20 N
斜面に垂直な向きの力は、垂直抗力 N(斜面から離れる向き)、重力の斜面に垂直な分力 mg cos 30°(斜面に向かう向き)、手が箱を押す力 3.0 N(斜面に向かう向き)の3つ。箱は斜面に垂直な向きには動かないので、この向きの力はつり合っていて、N = mg cos 30° + 3.0。mg cos 30° ≒ 2.0 × 9.8 × 0.866 = 16.97… N。N ≒ 16.97 + 3.0 = 19.97… ≒ 20 N
問3傾き 60° の斜面の上で、止まっていた箱から静かに手を離しました。箱の加速度の大きさと、斜面に沿って 2.0 m すべり下りるのにかかる時間を求めなさい。
加速度 約 8.5 m/s²、時間 約 0.69 s
加速度は a = g sin 60° ≒ 9.8 × 0.866 = 8.48… ≒ 8.5 m/s²。止まっていたので v0 = 0。x = ½at2 から、2.0 = ½ × 8.48… × t2。t2 = 2 × 2.0 ÷ 8.48… = 0.471…、t = 0.686… ≒ 0.69 s
(図の「放す」を押してください)
問4床からの高さ 2.5 m の所から、傾き 30° の斜面が床まで続いています。斜面の上の端で止まっていた箱から静かに手を離しました。箱が斜面の下の端(床)に着くときの速さを求めなさい。
7.0 m/s
斜面の長さを L とすると、高さ ÷ 斜面の長さ = sin 30° なので、2.5 ÷ L = 0.500 から L = 5.0 m。加速度は a = g sin 30° = 9.8 × 0.500 = 4.9 m/s²。v0 = 0 として v2 − v02 = 2ax から、v2 = 2 × 4.9 × 5.0 = 49。v = 7.0 m/s
問5傾き 30° の斜面の上の、質量 2.0 kg の箱に糸を付け、糸が斜面に沿って上向きに 15.8 N の力で箱を引いています。箱の加速度の向きと大きさを求めなさい。
斜面に沿って上向きに 3.0 m/s²
斜面に沿って上向きを正とする。斜面に沿った力は、張力 15.8 N(上向き)と、重力の分力 mg sin 30° = 2.0 × 9.8 × 0.500 = 9.8 N(下向き)。運動方程式は 2.0 × a = 15.8 − 9.8 = 6.0。a = 3.0 m/s² で、正の数なので斜面に沿って上向き
問6傾き 30° の斜面の下の端から、箱を斜面に沿って上向きに 3.0 m/s で押し出しました。
(1) 押し出してから、箱が止まるまでの時間を求めなさい。
(2) 箱はその後すべり下りて、押し出した位置に戻ってきました。戻ってきたときの速さを求めなさい。
(1) 約 0.61 s (2) 3.0 m/s
斜面に沿って上向きを正とする。手を離れた後の斜面に沿った力は下向きの mg sin 30° だけなので、a = −g sin 30° = −9.8 × 0.500 = −4.9 m/s²(上っている間も、下っている間も同じ)。(1) v = v0 + at に、v = 0、v0 = +3.0 m/s を入れて、0 = 3.0 + (−4.9) × t。t = 3.0 ÷ 4.9 = 0.612… ≒ 0.61 s。(2) 押し出した位置に戻ったとき、変位は x = 0。v2 − v02 = 2ax から、v2 − 3.02 = 2 × (−4.9) × 0 = 0。v2 = 3.02 で、v = −3.0 m/s(下向きなので負)。速さは 3.0 m/s
公式
物理基礎 第2章 力と運動の法則