要点
斜面の上の物体 A と、滑車でつるした物体 B がどちらへ動くかは、まず A の重力の斜面に沿った分力 mAg sin θ と、B の重さ mBg を比べて決めます。
傾き θ の斜面の上に物体 A を置き、軽い糸を付けます。糸を斜面の上の端の軽い滑車にかけ、もう一方の端に物体 B をつるします。この項目の図で、斜面があらいとき、A が斜面を上りはじめるのは B が何 kg のときかを探します。
A にはたらく力は、地球が A を引く力 mAg、斜面が A を押す力(垂直抗力)N、糸が A を引く力 T です(あらい斜面なら、斜面が A に加える摩擦力も加わります)。A の重力は、斜面に沿った分力 mAg sin θ(斜面に沿って下向き)と、斜面に垂直な分力 mAg cos θ に分けます。斜面に垂直な向きは、N と mAg cos θ がつり合っています。B にはたらく力は、地球が B を引く力 mBg(下向き)と、糸が B を引く力 T(上向き)です。B は鉛直に動くので、B の重力は分けません。軽い糸と軽い滑車なので、糸が A を引く力と糸が B を引く力は、同じ大きさ T です。
糸を通して、B の重さ mBg は A を斜面に沿って上へ引こうとし、A の分力 mAg sin θ は A を斜面に沿って下へ引こうとします。mBg のほうが大きければ、B が下へ、A が斜面を上へ動きます。mAg sin θ のほうが大きければ、A が斜面を下へ、B が上へ動きます。等しければ、止まっていた物体は止まったままです。比べるのは mAg ではなく、斜面に沿った分力 mAg sin θ です。
運動方程式は、① 物体を決める ② 力をすべて描く ③ 正の向きを決める ④ ma = 正の向きの力の合計 − 負の向きの力の合計 の順で立てます。① の物体は A と B で、② の力は上に挙げたとおりです。
2つの式を足すと T が消えて、(mA + mB)a = mBg − mAg sin θ です。
傾き 30° のなめらかな斜面で、mA = 2.0 kg、mB = 1.5 kg とします。A の分力は mAg sin 30° = 2.0 × 9.8 × 0.500 = 9.8 N、B の重さは mBg = 1.5 × 9.8 = 14.7 N です。14.7 N のほうが大きいので、B が下へ、A が斜面を上へ動きます。足した式から、(2.0 + 1.5) × a = 14.7 − 9.8 で、3.5 × a = 4.9、a = 1.4 m/s² です。B の式から、T = mBg − mBa = 14.7 − 1.5 × 1.4 = 14.7 − 2.1 = 12.6 ≒ 13 N です(2 桁に丸めて)。
斜面があらいと、斜面が A に摩擦力を加えます。摩擦力の向きは、A が動く向き(止まっているなら、動こうとする向き)と逆向きです。だから、あらい斜面では、先に mBg と mAg sin θ を比べて、A がどちらへ動こうとするかを決めます。その逆向きが摩擦力の向きです。
2つの物体を動かそうとする力は、mBg と mAg sin θ の差です。止まっている間、静止摩擦力は最大摩擦力 μN = μmAg cos θ(μ は静止摩擦係数)まで大きくなれます。差がこれ以下なら、静止摩擦力で支えられて、止まったままです。差が μmAg cos θ を超えると、動き出します。動いている間は、動摩擦力 μ′mAg cos θ(μ′ は動摩擦係数)を、動く向きと逆向きに入れて運動方程式を立てます。
傾き 30° のあらい斜面(静止摩擦係数 μ = 0.50、動摩擦係数 μ′ = 0.20)で、mA = 2.0 kg、mB = 0.50 kg とします。B の重さは 0.50 × 9.8 = 4.9 N で、A の分力 9.8 N より小さいので、A は斜面を下へ動こうとします。摩擦力は斜面に沿って上向きです。差は 9.8 − 4.9 = 4.9 N、最大摩擦力は 0.50 × 2.0 × 9.8 × 0.866 = 8.48… N です。4.9 N のほうが小さいので、A と B は止まったままです。このときの静止摩擦力は、差と同じ 4.9 N(斜面に沿って上向き)です。差が最大摩擦力を超えて動き出すときの計算は、例題でします。
A の質量は 2.0 kg、斜面の傾きは 30° です。A の重力は、2つの分力(赤の破線)に分けて描いています。
やってみよう
「あらい斜面」のボタンを押し、B の質量 mB を 0.50 kg にして「放す」を押してください。続けて、mB を 0.50 kg ずつ増やして、そのたびに放してください。A が斜面を上りはじめたのは、mB が何 kg のときですか。
0.50 kg・1.0 kg・1.5 kg では「止まったまま」で、2.0 kg で「A は斜面を上る」になりました。2.0 kg では差 19.6 − 9.8 = 9.8 N が、最大摩擦力 8.5 N を超えるからです。
確認
あらい斜面では、運動方程式を立てる前に、mBg と mAg sin θ を比べる必要があります。なぜですか。
摩擦力の向きは、A が動く向き(動こうとする向き)の逆なので、先にどちらへ動くかを決めないと、摩擦力の向きが決まらないからです。
例題
傾き 30° の斜面の上に質量 1.5 kg の物体 A を置き、軽い糸で、斜面の上の端の軽い滑車を通して質量 4.0 kg の物体 B をつるしました。静かに手を離したときについて、次の問いに答えなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とし、sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866 とします。
(1) 斜面がなめらかなとき、加速度の大きさ a と糸の張力の大きさ T を求めなさい。
(2) 斜面があらく、A と斜面の間の静止摩擦係数が 0.40、動摩擦係数が 0.30 のとき、A と B は動き出しますか。動き出すなら、加速度の大きさ a と糸の張力の大きさ T を求めなさい。
答え: (1) a ≒ 5.8 m/s²、T ≒ 16 N (2) 動き出す。a ≒ 5.1 m/s²、T ≒ 19 N
斜面の上の物体を水平に押すときは、押す力を斜面に沿った分力 F cos θ と斜面に垂直な分力 F sin θ に分けます。垂直抗力は mg cos θ + F sin θ になります。
なめらかな斜面の上の箱を、あなたが横から水平に押します。この項目の図で、箱が斜面を上りはじめる押す力を探します。
水平に押す力 F は、斜面に沿った向きでも、斜面に垂直な向きでもありません。そこで、重力と同じように、斜面に沿った分力と、斜面に垂直な分力に分けます。
斜面は、水平な床から角 θ だけ傾いています。だから、斜面に沿った向きは、水平な向きから θ だけ傾いた向きです。水平な力 F と、斜面に沿った向きの間の角は θ です。斜面に沿った分力は F cos θ(斜面に沿って上向き)、斜面に垂直な分力は F sin θ(斜面に押し付ける向き)です。
床と斜面の間の角 θ と、水平な力 F と斜面の間の角は、同じ θ です。破線は F の2つの分力です。
斜面に沿った向きの力は、押す力の分力 F cos θ(上向き)と、重力の分力 mg sin θ(下向き)です。箱がどちらへ動くかは、押す力の大きさで変わります。そこで、この項目では斜面に沿って上向きを正にします。運動方程式は ma = F cos θ − mg sin θ です。a が負なら、加速度は斜面に沿って下向きです。F cos θ が mg sin θ より大きければ、初め止まっていた箱は斜面を上りはじめ、小さければ下りはじめます。
斜面に垂直な向きで、箱を斜面に押し付ける力は、重力の分力 mg cos θ と、押す力の分力 F sin θ の2つです。箱は斜面に垂直な向きには動かないので、斜面が箱を押す力 N は、この2つとつり合います。
傾き 30° のなめらかな斜面の上の 2.0 kg の箱を、水平に F = 10 N で押します。斜面に沿って、押す力の分力は F cos 30° ≒ 10 × 0.866 = 8.66 N、重力の分力は mg sin 30° = 2.0 × 9.8 × 0.500 = 9.8 N です。押す力 10 N は 9.8 N より大きいのに、斜面に沿った分力 8.66 N は 9.8 N より小さいので、箱は斜面を下ります。加速度は、2.0 × a = 8.66 − 9.8 = −1.14 から、a = −0.57 m/s² です。斜面に沿って下向きに 0.57 m/s² です。垂直抗力は、N = 2.0 × 9.8 × 0.866 + 10 × 0.500 = 16.97… + 5.0 = 21.97… ≒ 22 N です。
箱の質量は 2.0 kg、斜面の傾きは 30° です。藍の破線は押す力の2つの分力、赤の破線は重力の2つの分力です。初め止まっていた箱を、水平に押し続けたときの動きを表しています。
やってみよう
押す力 F を 0.0 N にし、そこから 5.0 N ずつ大きくしてください。様子が「斜面を下る」から「斜面を上る」に変わったのは、F が何 N のときですか。そのときの垂直抗力 N は何 N ですか。
F = 15 N で「斜面を上る」に変わりました。そのときの垂直抗力は 24.5 N で、F = 0.0 N のときの 17.0 N より大きくなっています。
確認
同じ大きさの力で押すとき、斜面に沿って押すときより、水平に押すときのほうが垂直抗力が大きくなるのはなぜですか。
水平に押すと、押す力の一部 F sin θ が、箱を斜面に押し付ける向きにはたらくからです。
例題
傾き 30° のなめらかな斜面の上に、質量 2.0 kg の箱があります。この箱を水平に押して、斜面の上に止めておきます。押す力の大きさ F と、斜面が箱を押す力(垂直抗力)の大きさ N を求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とし、sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866 とします。
答え: F ≒ 11 N、N ≒ 23 N
重力加速度の大きさは 9.8 m/s² とします。三角比は sin 30° = 0.500、cos 30° ≒ 0.866 を使います。糸と滑車はどれも軽く、滑車はなめらかに回るとします。等加速度直線運動の式は x = v0t + ½at2(v0 は初めの速度、x は t 秒間の変位)を使います。
問1傾き 30° のなめらかな斜面の上に質量 2.0 kg の物体 A を置き、軽い糸で、斜面の上の端の滑車を通して質量 3.0 kg の物体 B をつるしました。静かに手を離しました。(1) 加速度の大きさ a と、糸の張力の大きさ T を求めなさい。(2) 手を離してから、B が 0.49 m 下がるまでの時間を求めなさい。
(1) a ≒ 3.9 m/s²、T ≒ 18 N (2) 0.50 s
(1) A の分力は 2.0 × 9.8 × 0.500 = 9.8 N、B の重さは 3.0 × 9.8 = 29.4 N。B の重さのほうが大きいので、B は下へ、A は斜面を上へ動く。A は斜面に沿って上向き、B は下向きを正とする。A: 2.0 × a = T − 9.8、B: 3.0 × a = 29.4 − T。足して 5.0 × a = 19.6、a = 3.92 ≒ 3.9 m/s²。B の式から T = 29.4 − 3.0 × 3.92 = 17.64 ≒ 18 N。(2) B は v0 = 0 から、加速度 3.92 m/s² で下へ 0.49 m 動く。0.49 = 0 + ½ × 3.92 × t2、t2 = 0.49 ÷ 1.96 = 0.25、t = 0.50 s
(「なめらかな斜面」、B の質量 mB = 3.0 kg になります。「放す」を押すと、「A は斜面を上る」、a = 3.92 m/s²、T = 17.6 N と出ます)
問2傾き 30° のあらい斜面の上に質量 5.0 kg の物体 A を置き、軽い糸で、斜面の上の端の滑車を通して質量 1.0 kg の物体 B をつるしました。A と斜面の間の静止摩擦係数は 0.30、動摩擦係数は 0.10 です。静かに手を離すと、A と B は動き出しますか。動き出すなら、加速度の大きさ a と、糸の張力の大きさ T を求めなさい。
動き出す(A が斜面を下る)。a ≒ 1.7 m/s²、T ≒ 12 N
A の分力は 5.0 × 9.8 × 0.500 = 24.5 N、B の重さは 1.0 × 9.8 = 9.8 N。A の分力のほうが大きいので、A は斜面を下へ動こうとし、摩擦力は斜面に沿って上向き。動かそうとする力は 24.5 − 9.8 = 14.7 N、最大摩擦力は 0.30 × 5.0 × 9.8 × 0.866 = 12.73… N。14.7 N のほうが大きいので動き出す。動摩擦力は 0.10 × 5.0 × 9.8 × 0.866 = 4.243… N。A は斜面に沿って下向き、B は上向きを正とする。A: 5.0 × a = 24.5 − T − 4.243…、B: 1.0 × a = T − 9.8。足して 6.0 × a = 24.5 − 9.8 − 4.243… = 10.45…、a = 1.742… ≒ 1.7 m/s²。B の式から T = 9.8 + 1.0 × 1.742… = 11.54… ≒ 12 N
問3傾き 30° のなめらかな斜面の上で止まっていた質量 2.0 kg の箱を、水平に 20 N の力で押しました。箱の加速度の向きと大きさ、斜面が箱を押す力(垂直抗力)の大きさを求めなさい。
斜面に沿って上向きに a ≒ 3.8 m/s²、垂直抗力 N ≒ 27 N
斜面に沿って上向きを正とする。押す力の分力 F cos 30° ≒ 20 × 0.866 = 17.32 N(上向き)、重力の分力 mg sin 30° = 2.0 × 9.8 × 0.500 = 9.8 N(下向き)。2.0 × a = 17.32 − 9.8 = 7.52、a = 3.76 ≒ 3.8 m/s²(正なので上向き)。N = mg cos 30° + F sin 30° = 2.0 × 9.8 × 0.866 + 20 × 0.500 = 16.97… + 10 = 26.97… ≒ 27 N
(押す力 F = 20 N で、「斜面を上る」、加速度 3.76 m/s²(斜面に沿って上向き)、N = 27.0 N と出ます)
問4傾き 30° のあらい斜面の上の質量 1.0 kg の箱を、水平な力で押して、斜面に沿って一定の速さで上らせます。箱と斜面の間の動摩擦係数は 0.20 です。押す力の大きさ F を求めなさい。
F ≒ 8.6 N
一定の速さなので、斜面に沿った向きの力はつり合う(合力 0)。垂直抗力は N = mg cos 30° + F sin 30° = 1.0 × 9.8 × 0.866 + 0.500F = 8.486… + 0.500F。箱は斜面を上るので、動摩擦力 μ′N は斜面に沿って下向き。斜面に沿った向きのつり合いは、F cos 30° = mg sin 30° + μ′N。0.866F = 4.9 + 0.20 × (8.486… + 0.500F) = 4.9 + 1.697… + 0.100F。(0.866 − 0.100)F = 6.597…、0.766F = 6.597…、F = 8.612… ≒ 8.6 N
要点
物理基礎 第2章 力と運動の法則