要点
地球から遠く離れると万有引力が小さくなるので、持ち上げる仕事を mgh(力 × 距離)では求められません。
このページでは、地球の自転、空気の抵抗、月や太陽などほかの天体の引力は考えません。物体にはたらく力は、地球の万有引力だけとします。
地表の近くでは、重力による位置エネルギーは U = mgh です(h は基準面からの高さ)。mgh は、大きさ mg の一定の力で、高さ h だけ動かす仕事(力 × 距離)です。力 mg が一定だと考えてよいのは、地表の近くだけです。
ロケットで荷物(物体)を宇宙へ運ぶ場面を考えます。地球が荷物を引く万有引力の大きさは F = GMmr2 です。G は万有引力定数、M は地球の質量、m は荷物の質量、r は地球の中心から荷物までの距離です。地表では r = R(地球の半径)で、万有引力の大きさは mg です。中心からの距離が 2 倍の 2R になると、万有引力は 122 = 14 倍の mg4 になります。中心からの距離が 2R の所は、地表から高さ R(約 6400 km)の所です。
中心からの距離 r と、万有引力の大きさ F を表にします。
| 中心からの距離 r | R | 2R | 3R | 4R |
|---|---|---|---|---|
| 地表からの高さ | 0 | R | 2R | 3R |
| 万有引力の大きさ F | mg | mg/4 | mg/9 | mg/16 |
この表の値を、横軸 r、縦軸 F のグラフに点で打ちます。このグラフを、このページでは F-r グラフと呼びます。たとえば点(2R, mg/4)は、「地球の中心から 2R の所(地表から高さ R)では、万有引力の大きさは地表の 14」という意味です。点を結ぶと、r が大きくなるほど下がっていく曲線になります。
力が一定なら、仕事は 力 × 距離 で、力と距離のグラフでは長方形の面積です。力が変わるときも、力と距離のグラフの線の下の面積が仕事になります。物体をゆっくり(速さを変えずに)持ち上げるとき、持ち上げる力の大きさは万有引力と同じです。だから、地表(r = R)から 2R まで持ち上げる仕事は、F-r グラフの曲線の下の、R から 2R までの面積です。
地表から高さ R まで持ち上げる仕事を mgh で計算すると、mg × R です。これは、縦 mg、横 R の長方形の面積です。力がずっと地表の mg のままだと考えた場合です。実際には、上がるにつれて力が小さくなるので、曲線の下の面積は、この長方形より小さくなります(下の図)。だから、地球から遠く離れる運動では、mgh は使えません。
赤く塗った面積が、地表から高さ R まで持ち上げる仕事です。破線の長方形は、力がずっと mg のままだとした場合の仕事です。
確認
地表から 10 m 持ち上げる仕事を求めるとき、mgh を使ってよいですか。
よいです。10 m は地球の半径 6400 km に比べてとても短く、その間で万有引力の大きさはほとんど変わらないからです。
無限に遠い所を基準にすると、地球の中心から r の所にある物体の、万有引力による位置エネルギーは U = −GMmr です。
重力による位置エネルギーは、物体が基準面の高さまで移る間に、重力がする仕事です。万有引力でも、同じように決めます。基準は、地球から無限に遠い所にします。無限に遠い所とは、どこまでも遠く離れて、万有引力がほとんど 0 になる所です。無限に遠い所は、記号 ∞(むげんだい)で表します。
物体が、地球の中心からの距離が r の所から、無限に遠い所まで移る間、物体は地球から離れる向きに動きます。万有引力は、地球の中心に向かう向きにはたらきます。力の向きと動く向きが逆なので、万有引力がする仕事は負です(基準面より下にある物体の U = mgh が負になるのと同じです)。
仕事の大きさは、F-r グラフで、r から右の、曲線の下の面積全部です。この面積は、右へどこまでも続きます。それでも、限りなく大きくはなりません。たとえば、r から 2r までの面積は GMmr の 12、2r から 4r までは 14、4r から 8r までは 18 …と、半分ずつになります。12 + 14 + 18 + … は、足すほど 1 に近づきますが、1 を超えません。だから、面積を全部足しても GMmr を超えません。全部足した面積は、ちょうど GMmr です。求め方には数学の積分を使うので、このページでは結果だけを使います。
仕事が負で、大きさが GMmr なので、万有引力による位置エネルギーは次の式になります。これを万有引力による位置エネルギーといいます。
地表では、万有引力の大きさ GMmR2 が mg と等しいので、GM = gR2 です。これを使うと、地表での GMmR = gR2 × m ÷ R = mgR です。質量 1.0 kg の物体なら、地表での U = −mgR = −1.0 × 9.8 × 6.4 × 106 = −6.272 × 107 J です。与えた数(1.0 kg、9.8 m/s²、6.4 × 106 m)が 2 桁なので、値も 2 桁にそろえて、U ≒ −6.3 × 107 J とします。これは、1.0 kg の物体を地表から無限に遠い所までゆっくり運ぶには、6.3 × 107 J の仕事が要る、という意味です。
無限に遠い所を除いて、U はどこでも負です。基準にした無限に遠い所(U = 0)より地球に近い所は、どこも基準より「低い」所だからです。
下の図で、物体を地球から遠くへ運ぶと、赤く塗った面積と位置エネルギー U がどう変わるかを確かめます。
赤く塗った面積と、その先、無限に遠い所までの面積を合わせたものが、位置エネルギー U の大きさ(負の符号を除いた値)です。図に塗れているのは 4.5R までです。図の大きさは、地球の半径と距離の比を実際どおりにしています。
やってみよう
「2R」のボタンを押してください(はじめは R です)。位置エネルギー U は増えましたか、減りましたか。−GMmR の何倍になりましたか。
U は −GMmR × 1 から −GMmR × 12 になり、12 倍です。負の数では 0 に近いほうが大きい(−1 より −12 のほうが大きい)ので、U は増えました。赤く塗った面積は小さくなりました。
物体をゆっくり(速さを変えずに)運ぶとき、運ぶ力がする仕事は、位置エネルギーの増えた分です。式で書くと、運ぶ仕事 =(運んだ後の U)−(運ぶ前の U)です。
地表の近くで高さが少し変わるだけなら、U の差は mgh とほとんど同じになります(高さ 100 m なら、mgh の 0.99998 倍)。基準が違うので U の値そのものは mgh と違いますが、差はほとんど同じです。
確認
地表にある物体の位置エネルギーが負なのは、物体のエネルギーが足りないという意味ですか。
いいえ。無限に遠い所を 0 と決めたので、それより地球に近い所は、どこでも負になります。
例題
質量 1.0 kg の物体を、地表から高さ R の所まで、ゆっくり運びます。運ぶのに要る仕事を求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s²、地球の半径 R は 6.4 × 106 m とし、GM = gR2 を使いなさい。
答え: 3.1 × 107 J
打ち上げた物体の運動は、力学的エネルギー保存 12mv2 − GMmr = 一定 で考えます。十分に速く打ち上げると、物体は地球から離れきって、戻ってきません。
地表から打ち上げた物体には、万有引力だけがはたらきます。万有引力だけが仕事をするとき、運動エネルギー K = 12mv2 と位置エネルギー U の和(力学的エネルギー E = K + U)は一定です。位置エネルギーを −GMmr にすると、次の式になります。
地表から真上に、速さ v0(ブイゼロ)で打ち上げます。打ち上げた瞬間は、r = R、速さ v0 です。物体は上がるにつれて遅くなります。戻ってくるときは、最高点で速さが 0 になります。ボールを真上に投げ上げたとき、いちばん高い所で一瞬止まるのと同じです。
最高点の中心からの距離を r とすると、12mv02 − GMmR = 0 − GMmr です。
下の図で、打ち上げる速さを変えて、物体がどこまで上がるか、戻ってくるかを確かめます。
エネルギーは、地表での GMmR を 1 とした値です。動きは実際の 1200 倍の速さにしています。
やってみよう
「5.0 km/s」「7.9 km/s」「10.0 km/s」「11.2 km/s」のボタンを順に押し、そのたびに「打ち上げる」を押してください。物体が戻ってきた速さと、戻ってこなかった速さで、力学的エネルギー E の値はどう違いますか。
戻ってきた 5.0・7.9・10.0 km/s では、E は −0.80・−0.50・−0.20 で、どれも負です。戻ってこなかった 11.2 km/s では、E は 0.00 です。
物体が地球から離れきって、無限に遠い所まで行けるかを考えます。無限に遠い所では U = 0 なので、そこでの力学的エネルギーは運動エネルギー K だけです。運動エネルギー 12mv2 は、負になりません。だから、無限に遠い所まで行けるのは、力学的エネルギーが 0 以上のときだけです。力学的エネルギーは一定なので、打ち上げた瞬間の値で、12mv02 − GMmR ≧ 0 なら離れきります。
離れきるのに要る、いちばん小さい速さを求めます。12mv02 − GMmR = 0 とおきます。両辺を m で割り、GM = gR2 を入れると、12v02 − gR = 0 です。だから、v02 = 2gR、v0 = √2gR です。2 × 9.8 × 6.4 × 106 = 1.2544 × 108 なので、v0 = √1.2544 × 108 m/s です。1.12 × 1.12 = 1.2544、104 × 104 = 108 なので、v0 = 1.12 × 104 m/s = 11.2 km/s です。2 桁に丸めて、≒ 11 km/s です。この速さを第二宇宙速度といいます。
確認
地表から真上ではなく、斜め上に向けて 11.2 km/s で打ち上げても、物体は地球から離れきれますか。
離れきれます。打ち上げた瞬間の力学的エネルギー 12mv02 − GMmR は、速さで決まり、向きによらないからです。
例題
地表から真上に、速さ v0 = √gR(≒ 7.9 km/s)で物体を打ち上げます。物体が上がる最高点の、地表からの高さを求めなさい。地球の半径 R は 6.4 × 106 m とし、GM = gR2 を使いなさい。
答え: 6.4 × 106 m(地球の半径と同じ高さ)
楕円軌道を回る衛星の、地球にいちばん近い所と遠い所の速さは、r1v1 = r2v2 と力学的エネルギー保存の2つの式を連立して求めます。
地表すれすれから、人工衛星を水平に打ち出します。速さが √gR ≒ 7.9 km/s なら、衛星は地表すれすれの円軌道を回ります。これは、円軌道の速さ v = √GMr に r = R を入れた値です。打ち出す速さを 7.9 km/s より大きくすると、衛星は円ではなく楕円の軌道を回ります。速さが第二宇宙速度(約 11 km/s)以上だと、楕円にならず、地球から離れきります。
円軌道は地表すれすれですが、見やすいように少し離して描いています。
楕円には、長い軸の上に、焦点という2つの点があります。衛星の楕円軌道では、焦点の1つに地球の中心があります。楕円軌道の上で、地球の中心にいちばん近い点を近地点、いちばん遠い点を遠地点といいます。近地点での中心からの距離を r1、速さを v1、遠地点での距離を r2、速さを v2 とします(1 は近地点、2 は遠地点)。
地球の中心と衛星を結ぶ線が、同じ時間に描く面積は、軌道のどこでも同じです(ケプラーの第2法則)。近地点と遠地点では、衛星の進む向きが、地球の中心と衛星を結ぶ線に垂直です。だから、同じ短い時間に描く形は、高さが中心からの距離 r、底辺が進んだ長さの、細い三角形とみてよいです。進んだ長さは速さ v に比例するので、描く面積は r × v に比例します。面積が等しいので、近地点と遠地点では r1v1 = r2v2 が成り立ちます。遠地点は遠いので、遠地点の速さは近地点より小さくなります。
衛星にはたらく力は万有引力だけなので、力学的エネルギーは保存されます。
r1 と r2 が分かっていれば、知りたいのは v1 と v2 の2つです。式も2つあるので、連立すると v1 と v2 が求められます。まず r1v1 = r2v2 で v2 を v1 で表し、それをエネルギーの式に入れます。
近地点と遠地点では、速度の矢印が、地球の中心と結ぶ線に垂直です。
確認
楕円軌道を回る衛星の位置エネルギー U が大きいのは、近地点と遠地点のどちらですか。
遠地点です。U = −GMmr は、r が大きいほど 0 に近く、大きいからです。
例題
人工衛星が、近地点が地表すれすれ(地球の中心から R)、遠地点が地球の中心から 3R の楕円軌道を回っています。近地点と遠地点での速さを求めなさい。重力加速度の大きさは 9.8 m/s²、地球の半径 R は 6.4 × 106 m とし、GM = gR2 を使いなさい。
答え: 近地点 9.7 km/s、遠地点 3.2 km/s
重力加速度の大きさは 9.8 m/s²、地球の半径 R は 6.4 × 106 m とします。地球の自転と空気の抵抗は考えません。地球の質量を M、万有引力定数を G とすると、GM = gR2 です。
問1質量 3.0 × 102 kg の探査機を、地球の中心から 2R の所から 5R の所まで、ゆっくり運びます。運ぶのに要る仕事を求めなさい。
5.6 × 109 J
運ぶ仕事 =(運んだ後の U)−(運ぶ前の U)=(−GMm5R)−(−GMm2R) = GMm2R − GMm5R = 3GMm10R。GM = gR2 を入れて、3GMm10R = 3mgR10 = 0.3 × 3.0 × 102 × 9.8 × 6.4 × 106 = 5.6448 × 109 ≒ 5.6 × 109 J
問2地表から高さ R(地球の中心から 2R)の円軌道を、質量 5.0 × 102 kg の人工衛星が回っています。円軌道の衛星の速さは v = √GMr です。この衛星の (1) 運動エネルギー K、(2) 万有引力による位置エネルギー U、(3) 力学的エネルギー E を求めなさい。
(1) 7.8 × 109 J (2) −1.6 × 1010 J (3) −7.8 × 109 J
(1) r = 2R なので v2 = GM2R。K = 12mv2 = 12 × m × GM2R = GMm4R = mgR4 = 5.0 × 102 × 9.8 × 6.4 × 106 ÷ 4 = 7.84 × 109 ≒ 7.8 × 109 J
(2) U = −GMm2R = −mgR2 = −5.0 × 102 × 9.8 × 6.4 × 106 ÷ 2 = −1.568 × 1010 ≒ −1.6 × 1010 J
(3) E = K + U = 7.84 × 109 − 1.568 × 1010 = −7.84 × 109 ≒ −7.8 × 109 J(丸める前の値で計算する)。E は負なので、この衛星は地球から離れきれません
問3地表から真上に打ち上げた物体が、地表から高さ 2R の所で一瞬止まり、落ちてきました。打ち上げた速さを求めなさい。
9.1 km/s
最高点は中心から r = R + 2R = 3R。力学的エネルギー保存から、12mv02 − GMmR = 0 − GMm3R。両辺を m で割り GM = gR2 を入れて、12v02 − gR = −gR3。12v02 = gR − gR3 = 23gR なので、v02 = 43gR = 43 × 9.8 × 6.4 × 106 = 8.3627 × 107 = 83.627 × 106 m²/s²。v0 = √83.627 × 106 = √83.627 × 103 = 9.145 × 103 m/s ≒ 9.1 km/s
問4地表から高さ R(地球の中心から 2R)の所から、物体を真上(地球の中心と反対の向き)に打ち出します。物体が地球から離れきるには、少なくとも何 km/s の速さが要りますか。
7.9 km/s
離れきるいちばん小さい速さでは、力学的エネルギーがちょうど 0。打ち出す所は r = 2R なので、12mv2 − GMm2R = 0。両辺を m で割り GM = gR2 を入れて、12v2 = gR2、v2 = gR = 9.8 × 6.4 × 106 = 6.272 × 107 = 62.72 × 106 m²/s²。v = √62.72 × 106 = √62.72 × 103 = 7.92 × 103 m/s ≒ 7.9 km/s。地表から打ち上げるときの第二宇宙速度(約 11 km/s)より小さくてすみます
問5人工衛星が地球のまわりを楕円軌道で回っています。近地点は地球の中心から 8.0 × 106 m の所で、そこでの速さは 8.2 km/s です。遠地点は地球の中心から 1.6 × 107 m の所です。遠地点での速さを求めなさい。
4.1 km/s
r1v1 = r2v2 に r1 = 8.0 × 106 m、v1 = 8.2 km/s、r2 = 1.6 × 107 m を入れて、8.0 × 106 × 8.2 = 1.6 × 107 × v2。v2 = 8.0 × 106 × 8.2 ÷ (1.6 × 107) = 8.2 ÷ 2.0 = 4.1 km/s
問6人工衛星が、近地点が地表すれすれ(地球の中心から R)、遠地点が地球の中心から 4R の楕円軌道を回っています。近地点と遠地点での速さを求めなさい。
近地点 1.0 × 104 m/s(約 10 km/s)、遠地点 2.5 km/s
r1v1 = r2v2 から R × v1 = 4R × v2 なので、v2 = v14。力学的エネルギー保存から 12mv12 − GMmR = 12mv22 − GMm4R。両辺を m で割り、v2 = v14 と GM = gR2 を入れて、12v12 − gR = 12 × v1216 − gR4。12v12 − v1232 = gR − gR4 なので、1532v12 = 34gR。v12 = 3215 × 34gR = 85gR = 1.6 × 9.8 × 6.4 × 106 = 1.00352 × 108 m²/s²。v1 = √1.00352 × 108 = √1.00352 × 104 = 1.0018 × 104 m/s ≒ 1.0 × 104 m/s。v2 = v14 = 1.0018 × 104 ÷ 4 = 2.504… × 103 m/s ≒ 2.5 km/s
要点
物理 第5章 万有引力